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ch.031 ※カニバあり Ch.031 唯「隻眼グルメレース」 2学期の中間テストでまたもや赤点を取ってしまった私は今回も澪ちゃんに泣きついた。 「わかったよ。勉強見てあげるから鼻水拭こうな」 「ありがとー澪ちゃん」 1学期は軽音部のみんなが家に来てくれたんだけど今回は澪ちゃんとのマンツーマンが実現しました。 やったね。ていうか私がそうなるように日にちを選んだんだけどね。 今回は週末に教えてもらうから澪ちゃんには家に泊まっていってもらうんだ。 ああ~楽しみだよう。あっそうだ、私も色々と準備しないと。ええと、まずはお菓子でしょ、それから呑み物とーお菓子とー……よーし今日の夜に買いに行こう。 私はお泊りに向けて準備を始めた。 週末はあっという間にやってきた。 「それじゃあ一旦帰ってから唯の家に行くから」 「うん!」 澪ちゃんと別れて家路に着く。 今日のこれからの事を考えるとドキドキが止まらない。 勉強の事は微塵も考えていなくて、ただ今日の夜にすることだけを考える。 そうしていると心が落ち着かない感じになってくるんだ。 「おじゃまします」 「澪ちゃんいらっしゃい!」 ついに澪ちゃんが家にやってきた。 それだけで十分なのにお土産までもらっちゃった。 「澪さんありがとうございます」 「あ、憂ちゃん、どういたしまして」 ちょっと歯切れが悪い。 澪ちゃんの視線は憂の左目についている眼帯をチラリ。それから目線を下げた。 私の部屋に通してから少しお話をする。 「憂の目の事言ってなかったよね」 「え、あ、うん。前に来たときからだいぶ経ってるのにまだ眼帯つけてたから……。憂ちゃんに悪い事したな」 「大丈夫だよ。憂は気にしてないよ」 澪ちゃんに憂の目の事をやんわりと濁して伝えた。 澪ちゃんと勉強している時は私が落ち着きがなくて何回も怒られちゃった。 そんな辛い勉強時間が憂の声で中断される。 「お姉ちゃん晩ご飯出来たよ」 「わかった今行くよ」 「それじゃあ一旦休憩だな」 澪ちゃんの中で晩御飯は休憩時間になってるみたいだけど私にとっては本日の勉強終了の合図だよ。 なんていったってこの後にお楽しみが待っているんだから。 晩御飯を食べた後、私は澪ちゃんに部屋でデザートを食べようと勧めて半ば強引に決定した。 「このアイスおいしいな」 「実はコレ私が作ったんだよ」 「うそっ。凄いよ唯」 「えへへ」 憂に手伝ってもらったんだけどね。 さてと、そろそろ……。 「澪ちゃんジュース注いであげる」 「うん、ありがとう」 この日のために用意したジュースを注いであげる。 「どう、おいしい?」 「うん、甘くておいしいよ」 「それはよかった」 「澪ちゃん知ってる? 目にも利き目っていうのがあるんだって」 「へえ、どうすると分かるんだ?」 「まず両手で小さい丸を作って腕を伸ばします。それで私の机に置いてある人形を覗いて見て。それから片方ずつ目を閉じてみて」 「わかった」 「そうすると自然と利き目に合わせて見ているから片方の目からは人形が見えなくなるはずだよ」 「本当だ、私の場合だと右目に合わせてたみたいだ。左目はズレちゃってる」 「じゃあ澪ちゃんの利き目は右だね!」 「そうだったんだ」 そうかあ。澪ちゃんの利き目は右なのかあ。 それから暫く二人で喋っていると。 「――ん? 唯の顔赤くなってないか?」 「え~そうかな。そういう澪ちゃんも赤いよぉ」 「実はさっきからなんだかポワポワする……」 「あっわたしもだよ~」 不審に思った澪ちゃんがジュースの容器を手に取る。 「おい、これって……!」 「ジュースだよ? ほら書いてあるじゃん」 『ジュースみたいなお酒』ってね。 「馬鹿、これお酒じゃないか!」 「大丈夫だよ~」 「何にも大丈夫じゃない!」 澪ちゃんのは私のと違ってトッピングしてある特製ジュースだから大丈夫だよ。 「……」 「澪ちゃん眠いの?」 「うん」 「寝ちゃっていいよ」 「でも、勉強」 「私は大丈夫だから」 「……」 澪ちゃんは返事をしないで寝ちゃった。 そんな澪ちゃんを笑いを堪えきれずにニコニコしながら見つめる私。 変に思われなかったかな。多分大丈夫だよね。 「澪ちゃん? もう寝ちゃった?」 わざとらしく尋ねて、ついでに身体を揺さぶるけど澪ちゃんは全く反応しない。 うん、完全に寝ちゃったみたいだね。 私は机に突っ伏した澪ちゃんを優しく床に寝かせた。 イタズラをする前の子供みたいに笑みが零れる。実際イタズラしちゃうんだけどね。 まずは澪ちゃんの綺麗な顔を、特に瞼を凝視した。ちょっと釣り目で澪ちゃんの可愛さが存分に詰め込まれているその部分。うわあ睫毛長い。いいなあ。 さてと、それじゃあ。 「澪ちゃんの綺麗な瞳、見せてね」 澪ちゃん右目の上瞼に生えている長い睫毛を摘んで、捲り上げる。 そこには綺麗で透き通るような、焦点の合っていない瞳。 「きれい……」 この焦点の合っていない瞳はとてもいい。活動していない瞳はどこか不思議な印象で、それから嗜虐心をそそる。活き活きしたいつもの瞳も可愛くて好きだけどね。 至近距離でたっぷり観察してから一旦瞼を元に戻した。 私は急ぐ鼓動を落ち着けながら、澪ちゃんに跨って四つんばいになる。 「今日は味見だけだから。いただきます」 自分にしか聞こえない声で囁いて、再び澪ちゃんの右瞼を開く。 私がこんなに至近距離にいるのに恥ずかしがらずに視線を逸らさない瞳。私が口の中を見せても無反応。瞳に私の舌が触れそうになっているけどピクリとも動かない。 ゆっくりと顔を近づけて舌先で澪ちゃんの瞳に触れた。 ああ、あまじょっぱい。 正確な味は微かに涙のしょっぱさがある程度だけど。それでも私にはあまじょっぱいと感じられるんだ。 今まで荒い息を抑えながらゆっくり丁寧に扱ってきたけどもうだめ。二舐め目の途中から我慢できずにむしゃぶりついた。 あああああおいしいよ、おいしいよ。 夢中で乱暴にしゃぶっていると、澪ちゃんが小さく唸った。 心臓が止まるかと思ったけど、それで我に返ることが出来た。 いけないいけない、いくら起きないからってこれじゃあ駄目だよ。 冷静になってから改めて澪ちゃんを見返す。澪ちゃんの右目に生えている睫毛と目尻が濡れていて泣いているように見えた。 「ごめんね澪ちゃん、今度は優しくするからね」 濡れそぼった睫毛を引っ張ってもう一度右の瞳を出す。それから今度は優しく瞳の周りを舌先で撫でる。目尻から始めて下瞼をなぞると、私のザラザラした舌先にちくちくする睫毛の感触とつるつるな眼球の感触が同時に訪れる。 ゆっくりとなぞって目頭まで到達したら今来た道を通って目尻に戻る。そうやって何度も下瞼を往復していると不意に舌先に違和感が生まれた。 一旦瞳から離れて舌先を歯茎に押し当ててみると、感触が。 ああ、これは澪ちゃんの下睫毛だね。抜けちゃったのかあ。 その澪ちゃんの睫毛を唾液で包んで飲み込み、眼球の味見を再開した。 今度は別のところも舐めたいな。 そう思って澪ちゃんの上瞼を手前に引っ張る。半目になってる澪ちゃんも可愛いよ。 そうして出来た眼球と上瞼の間に私の舌を挿入した。 あんまり強く引っ張ったら駄目だからね。やさしいく、やさしいく。舌先1センチも入っていないけど、このくらいでいいかな。 それから澪ちゃんの眼球と上瞼の間を前後左右に蹂躙する。元々そんなスペースも動く余地も無いけれど、いろいろな方向に舌先を1ミリ動かすだけで私の鼓動は痛いくらいに速くなる。 それを押さえつけながら澪ちゃんと出会ってからのことを考えてみた。 澪ちゃんと最初に出会ったのは4月だから、もう半年になるのかあ。 澪ちゃんは一見クールでカッコいいけど、本当はそうじゃなくてとにかく可愛いんだよね。それに優しいし。もちろんりっちゃんやムギちゃんもかわいいよ。 そんな掛け替えの無いトモダチを手に入れることが出来てよかった。軽音部のみんなに私はある意味惚れちゃったね。そこで思った。高校ではこの子達にしようって。 でも食べちゃったら勿体無い。だって二回しか味わえないんだから。 その辺の人のを食べてもちっともおいしくない。ていうかまずいと思う。 やっぱり長い時間を一緒に過ごして仲良くなった人じゃないと。私がその人のことを好きになればなるほどその人の眼球は美味しくなるの。だから今回は味見だけ。 と言っても憂のしか食べたこと無いんだけどね。あれは美味しかったなあ。十年来の付き合いだし、何よりお互いがお互いのことを大好きだし。 でもあの時は勢い余って食べてしまったけど、今はすごく後悔している。 我慢できなくて食べてしまったけど今にして思えば後2、30年は我慢するべきだった。10年ちょっとであんなに美味しいんだから、半生分の味は想像もつかないよ。それに左目は憂の利き目だったから余計にね。せめて右目にしておけばよかった。 なんて、澪ちゃんのを舐めながらこんなこと思ってたら失礼だよ。 利き目は最後までとっておくって決めてあるから、今日はあえて利き目の味見。 でも……舐めれば舐めるほど切なくなってきちゃう。どうしよう。 息は荒く、舌の動きも乱暴になってきちゃった。 止められない。 何とかしないと。何とかしないと。別のことで満足しないと。 左手で澪ちゃんの瞼を押さえつつ、肘で自分の体重を支えてみる。ちょっときついけど無理じゃない。少し澪ちゃんに圧し掛かっちゃうや。ごめんね。 空いた右手でスウェットを脱がして私の下半身はショーツのみに。 自分のショーツに右手を這わせながら眼球を舐めた。 ああおいしい、おいしいよ澪ちゃん。私達は出会ってから半年しか経っていないけれどもうとっても仲良しだよね。だってこんなに美味しいと感じるんだもん。 澪ちゃんの事、軽音部の事、それから今のこの状況と澪ちゃんが起きちゃったらどうしようって事と、それからそれから……。 おおよそ考え付く変態的で興奮できる妄想をしながら、眼球を舐めて。 下瞼の中に舌を入れて澪ちゃんに挿入していると錯覚した時、私は果てた。 「んっ……あ……はあっ、はあっ」 私が戻ってくると同時に左腕は限界を迎えて澪ちゃんに覆い被さってしまった。 私の身体は汗だくで澪ちゃんに申し訳ないと思いつつも身体を動かす事が出来なかった。 少し休んだ後澪ちゃんから離れて、澪ちゃんを見つめる。 澪ちゃんの目の周りは私の涎でぐちゃぐちゃだった。零れた涙のようになっている。 ごめんね。 あ、澪ちゃんおはよう。良く寝てたね。あれ、覚えてないの? 昨日は――。でもさ、あのジュース美味しかったでしょ? あっ怒らないで。ごめんごめん。え、目に違和感が? それにカピカピしてる? とりあえず顔洗ってきなよ。そしたら朝ごはん食べようね。 ごめんね。 本当はこんな風になるはずだったけど、私我慢できそうにないや。 せめて利き目じゃないほうにするね。 私は立ち上がってクローゼットの奥から道具を取り出した。 「流石にこれは起きるかもしれないから、もうちょっと強めに寝てもらうね」 そういえば澪ちゃんって注射とか苦手そうだよね。そんなことを思いつつ時間を置く。 次に開瞼器を取り出して澪ちゃんの左目に取り付け。中々上手くいかない。もっと思いっきりやってみよう。よし、これでいいかな。 一通りの準備を終えてから深呼吸。 よし。 外眼筋を切り離してしまえば後はくりぬくだけ。 こんな考えでも何とかなってしまうあたり、私って凄いのかもしれない。 「すごい……」 眼球ってこうしてみると意外と大きい。 澪ちゃんの可愛くて大きな瞳はさらに大きくなった。 まるまるとしていて、これは本当に、美味しそうだ。 「ふふ……ははは……」 手に持った眼球を舌で舐めた。 色々なしょっぱさがあるけれど、それでも甘いよ。 「くっふふ……っは」 引き笑い。どうしてこんなに笑いが零れるんだろう。 瞳を右手に持って、左手についた液体を舐める。ちょっと固まってきちゃった。 ああやめよう。もう我慢できないからまだるっこしいのはやめよう。 右手の眼球を見据えて。 「いただきます」 大口を開けて放り込んだ。 んああ、最高だよ。これは最高。きっと最高。 吐きそうになるのを押さえながら眼球を口の中で転がす。 血の味と、なんだかよくわからない味と、涙の味もしてるはずだけど他の味が濃くていまいち感じ取れない。それでもこれがとても美味しい物だって理解している。だから美味しい。美味しすぎる。 直径2.5センチの澪ちゃんは口の中だとより大きく感じられた。 まだ噛まないよ。 口に入れて味を楽しんで少し冷静さを取り戻した。今はとにかく堪能しよう。 粒ガムを口に入れて決して噛まずに舐めるだけ。そんな感じで。 右のほっぺに入れたり、舌でつついてみたり、硬口蓋と舌で圧迫してみたり、甘噛みして澪ちゃんを楽しむ。 いいよ澪ちゃん。澪ちゃん美味しいよ。 それじゃあそろそろ。 右の歯に澪ちゃんの眼球をセットした。 やっぱり最初は噛みにくい。 少しずつ力を入れていくと、ポロッと歯から逃げてしまった。わざとだけどね。 もう一度歯に固定して力を入れる。ポロッ。 惜しむように何度か遊ばせる。 さて、今度はしっかり舌でも固定したよ。 ゆっくりと力を入れていく。今度は逃げられない。球体が少しずつゆがんでくる。この感触は中々味わえない。こんにゃくゼリーを凍らせて表面が少し溶けた状態かな。……いや、芯がやたら硬いナタデココかな。 そんな事を考えていると、眼球からドロッと液体が漏れた。 来てる、来てるよ。 口内に液体が溜まってくる。 三分の一くらいまで歯を食い込ませたところで本気を出す事にした。 暫く眼球と格闘して、それから。 ぐちゃ。 気が遠くなる気配。 半分にする事に成功した。 半分になったそれを左右の歯に乗せて再び噛み砕く。 口に溜まった液体を飲み干して、眼球の残骸を吸い尽くす。 最後は筋みたいなものが口に残っただけ。それも丸呑みして食べ尽くした。 「ごちそうさま」 美味しかったよ澪ちゃん。ちょっと勿体無い気もするけど。もう片方は何十年後かに死んだら食べさせてね。 ―――――――――――― 呼び鈴を鳴らして暫くすると和ちゃんが出てきた。 「どうしたのよ、こんな夜中に」 「ちょっとね。ねえ和ちゃん、眼鏡とって見せて」 「は? なんでよ」 「お願い」 「わかったわよ、ほら」 和ちゃんの両目をじっくり観察する。何よりも綺麗で、私の人生の目標の瞳だ。 これほどまでの瞳は私の世界で他に無い。だから後25年我慢して、それから私が死ぬ前に世界で一番のこれを食べる。和ちゃんの瞳を想像して強く強く思い残した。 「……? どうしたのよ、変な子ね」 「えへへ、大きく育ってね」 はあ? という呆れたような笑い方をする和ちゃん。 暫く会えないけど、私は忘れないよ。 むしろ忘れようとしても無理だね。 この先どんなに探してもこれ以上のものは見つかりっこない。 忘れられるわけ無いよ。 そんなに美味しそうな瞳。 END Ch.032 澪「爆散グルメレース」 唯「『ジュースみたいなお』っていうジュースだよ」 澪「変な名前だな。どれどれ……って!」 澪「『ジュースみたいなお酒』って書いてあるじゃないか! 私達結構飲んじゃってるよ!」 唯「あらまあ」 澪「こんなの飲んだら勉強どころじゃ……ん?」 唯「……」 澪「唯?」 唯「あれ……眠くなってきた」 澪「おいいい」 唯「な、なんで……もしかして私が飲んじゃった?」 澪「どうした?」 唯「しま……った……ぐー」 澪「……寝ちゃった」 澪「おーい唯ー」 唯「……」 澪「起きろー」 唯「くー」 澪「起きる気配がない」 澪「仕方ない。今日の勉強は中止で」 唯「うぅん……」 澪「……」 唯「みお……ちゃ」 澪「うっ……」 澪「はあ……はあ……お、起きないよな」 澪「ちょっと……ちょっとだけ……」 ペロペロペロペロペロペロペロペロ 爆散 8
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変だな、と思った。 膠着状態。今の僕達はまさにそれだ。 誰かを殺し、それを誰にも見破られずに貫き通せば、他の全員の命と引き換えに自分が卒業。 そこには、会ったばかりのはずの他人に対する警戒心や、他人を犠牲する自分に対する嫌悪感があったのだろう。 もしかしたら、他の生徒の目を欺いて完全な殺人を犯す、ということの難易度に身構えていた結果かもしれない。 とにかく僕達は、そのルールに縛られずにこの学園生活を送っていた。 誰も殺さず、けれど仲良しこよしというわけでもなく。 妙な連帯意識を結ぶ相手もいれば、絶えず警戒を張り巡らせている人もいる。 それでも、その妙な距離感を、僕達は享受していたのだ。 そうして、数か月。 たった数か月と言えばそれまでだけど、それでもその間に互いの距離感は把握していた。 だから。 「ぁ…苗木、君」 彼女に廊下で呼びとめられた時、僕は変だな、と、そう思ったんだ。 「…舞園さん。どうしたの?」 「…あ、いえ…その…」 一目見て分かるくらい、鈍い僕でも警戒心を抱いてしまうくらいに、彼女は様子がおかしかった。 息が荒く、耳元までその吸気の音が聞こえてくる。 肩が上下するたびに、そのふくよかな胸が強調されるようだ。 顔は赤く、熱にでも浮かされているのかのように目は虚ろ。 そして、 鼻孔を突く、僕の知らない匂い。 蕩けるように甘く、腐ったように粘り、溶かされるほど扇情的なその匂いの発生源は、紛れもなく目の前の彼女からだった。 彼女とは比較的、友好関係にあるはずだった。 同じ中学だったということもあるし、なにより彼女は助かることよりも、ここでどう生活するかを考えていた。 他の誰かを出し抜くよりも、現状を受け入れることに尽力をする人だったのだ。 「舞園さん、顔…真っ赤だよ?どうしたの?」 「あっ、いえっ、これは、その…」 だから、変だな、とは思ったけれど。 僕は警戒を、解いた。 そう言えば今朝の食堂で、ひどく具合が悪そうにしていたことを思い出す。 「まさか、熱があるんじゃ…」 と、歩み寄ろうとした僕から遠ざかる様に、 「っ…!」 舞園さんは距離を取った。 「?」 「あっ…す、すみません」 「や、謝られるようなことじゃないけど…ホントに大丈夫?」 足運びもおぼつかないようで、距離を取ったはいいものの、ふらついている。 本当に、熱に浮かされているとしか思えなくて。 僕は無遠慮にも、一歩踏み出したんだ。 「な、なえぎ、く…」 す、と腕を伸ばし、舞園さんの額に当てる。 「んっ…」 ちょっと無遠慮かなとも思ったけれど、熱があるなら一大事だ。 実際彼女の額は少し汗ばんでいて、燃えるように熱い。 「すごい熱だよ。安静にしてなきゃ…歩ける?保健室まで行こう」 「……」 手を胸のあたりに当てて、腰を揺らす。 その仕種が艶めかしくて、僕は唾を飲んだ。 何を考えているんだ、僕は。 相手はアイドルで、病人で、そして大切なクラスメイトだ。 こんな気持ち、失礼以外の何物でも―― 「わかりました、行きましょう」 と。 不意に彼女がそう言った。 「え?あ」 するり、と、僕の指に彼女の手が絡みつく。 艶めかしく、しっとりとした彼女の指が、まるで逃がさないとでも言うかのように、指と指の間にしがみついた。 「ま、舞園さん…?」 熱に浮かされた彼女の顔が、一瞬だけ陰ったように見えた。 けれど、それも気のせいだったのか。 「付いてきてくれますか、苗木君」 「う、うん…」 再び見た彼女の貌は、いつものように微笑んでいた。 「あれ?あの、舞園さん、こっちは保健室じゃ――」 ―――――――――――――――――――――― 『弾丸論破 鬼畜セレスの話(R-18) vs霧切』 ―――――――――――――――――――――― 「目新しい食べ物は追加されてなかったね…」 「まあ文句言ってもしゃーないべ。レパートリーは豊富だし、味も文句ないし」 「断言しよう!食堂には、季節ごとに旬の食材が入荷されているから、しばらくは同じ――」 「…それ、ずっと前に分かってることだろ」 恒例と化した、朝食会。 提案したのが誰で、それがいつだったのか、覚えている人間はどれくらいいるだろう。 それほど、ずっと前から続けられていたことだった。 生活環境を崩してしまわないように、全員で食堂にそろって朝食を取る。 その後、この共同生活の中で気が付いたことや、気になっている事項を上げて、解散。 既に形骸化した、そんな儀式めいた行事だ。 そんな中。 「――ふっ、…!!……、ん、っ…ぁぶ…っ」 想定以上の感覚に、思わず口の中のものを吐き出しそうになってしまい、私は慌てて手で押さえた。 「…舞園さん?」 正面に座っていた苗木君が、気付いて声をかけてくれる。 「どうしたの?吐きそう…?」 彼にだけは、気取られるわけにはいかない。 心配をかけたくないという気持ちもあるけれど、それ以上に。 既に汚れ、落ちてしまった私を、知られたくなかった。 まともに咀嚼していないものを無理矢理飲み込んで、私は笑顔を作り上げる。 「…大丈夫、です。すみません…ちょっと、苦手な味だったから」 「そう?…あ、じゃあ僕のパスタと交換しようよ。まだ、フォークはつけてないからさ」 彼は穏やかにほほ笑み、自分の平皿を指す。 茹でたパスタにレトルトのソースをかけただけの簡単なものだったが、確かに目の前のトーストよりはいい。 「…ありがとう、苗木君」 隣にいたセレスさんが、底意地の悪い笑みを向けてきた。 二つ隣の、セレスさんを挟んで向こう側の席では、朝日奈さんがご飯を流し込んでいる。 「おいおい朝日奈…そんな、オメェ、飯が逃げるわけでもねえんだし」 「朝日奈よ…ゆっくり噛まなければ、胃を悪くするぞ」 周囲の忠告も無視して、彼女は本当に料理を『飲み込んで』いた。 たぶん、アレが彼女が身につけた方法なんだろう。 確かにあれなら、あまり口の中は刺激されない。 それに、思わず零れる声も、 「んっ…ぐ…ふぅ、っ!…」 飲み込んで、誤魔化せるだろう。 けれど、私はそれを真似するわけにはいかなかった。 なりふり構っている場合じゃないのは理解している。 それでも。 「あはは…朝日奈さん、相変わらずすごい勢いだね」 目の前のこの少年の前で、はしたない姿は晒せない。 おそらく、それをわかってセレスさんは、私を苗木君の正面に座らせたのだろう。 震える手でフォークを握り、数本パスタを巻き付け、口の中へ。 唇にかするだけで、くすぐられたかのような甘い刺激が奔る。 まるで、生きた触手を食べているかのように感じた。 意思を持っているのではないかと疑うほど、その紐は私の舌にぬるぬると絡みついて、 「――ん、ふ…あ゛っ…!」 耐えきれず、私は横にあった牛乳で、それを流し込む。 「…舞園さん?パスタもダメだった…?」 また、彼が心配そうに覗きこんでくる。 ダメだ、悟られてはいけない。 「大丈夫…です…おいしい、からっ…」 テーブルの下で、これでもかというくらい、太ももに爪を突き立てた。 痛みがあれば、多少は紛らわせる。 出演してきた番組で、催眠術を見たことはあった。 それでも自分が実際にかけられたことは無くて、どうせ眉唾なものだろうと決めつけていた。 メンバーの一人が、実際に自分がかかった時のことを説明しても。 個人差だってあるだろうし、自分がかかっていると思い込んでいるだけなんだ、と。 私と朝日奈さんの口の中は、今は女性器となっている。 実際にそうなっているのではなく、性器としての機能なんかない。 ただ、催眠術でそう認識させられているのだ。 不思議なもので、自分が催眠にかかっているとわかっても、それは解けるものではなかった。 それどころかいっそう感覚を鋭敏化させ、 唇は陰唇に、口蓋はGスポットに、そして、 「ん、むっ…ふ、んぅ…っ!、!…っ」 ぬらぬらとパスタが纏わりつく舌からは、まるでクリトリスを細い紐で擦り上げられるかのような快感が、脳髄に届く。 ゾクゾクと脊髄を駆け抜けて、頭からアソコまで、電気のように鋭い性感が走り抜ける。 思わず背筋を震わせるも、表情にはおくびにも出すわけにはいかない。 口の中にあるものは、食べ物ではなく、もはや異物だ。 味すらもまともに感じられない。 咀嚼しなければ飲み込めず、けれども少しでも口を動かせば舌が――クリトリスが過敏に反応する。 既に、三回は絶頂した。 その度に満足げにセレスさんは笑い、苗木君には訝しげな目で見られる。 でも、私はまだ良い方だ。 『ゼロと言われない限りイケない』という催眠も継続している朝日奈さんには、地獄のような時間だろう。 絶頂できないことが、ではない。 「どこからか入ってくる食糧でしか、外の季節が分からないなんて…ね」 「どうだかな。それすらも怪しいものだ」 「どういうこと?」 「秋の食材が来たから秋だ、と…そう思い込むことも、黒幕の手のうちかもしれないだろう」 「意図的に季節感をずらされてる、ってわけ?」 「まあ…可能性も『ゼロ』じゃないだろうな」 「――ふぶっ…!!!」 ガシャン、と、大きな音を立てて、床に食器が落ちる。 朝日奈さんは体を大きく痙攣させて、意思のない絶頂を強制された。 幸か不幸か、彼女のその様子に気が付く人はおらず、 「あーあ、なにやってんだよ朝日奈…」 「あ、僕、拭くもの持ってくるよ」 落ちた皿に気を取られているのがほとんどだった。 「あ……、かは…っ…」 酸素を求めるように開かれた唇は震え、愛液のような涎を垂らす。 その呼吸すら刺激が強いのか、ピンと背筋を反らしたまま、切なそうに目を潤ませている。 どれだけ刺激されてもイケないのに、何の前触れもなく絶頂が訪れる。 その辛さを思い、私は目をつぶった。 彼女に比べれば、私なんてまだ楽な方なんだ。 「――苗木君、ごちそうさまでした」 気を聞かせて雑巾を持ってきた彼に、私は微笑みを向ける。 「あれ、もういいの?」 「ちょっと、食欲が無くて…後のこと、お願いしていいですか?」 苗木君が頷くのを確認して、私は席を立った。 「大丈夫か、朝日奈…気分がすぐれないのなら、」 「…だい、じょぶ…ごめん、私もう行く…」 フラフラのまま、朝日奈さんが立ち上がる。 けれども腰が抜けたようで、そのまま地面に倒れてしまいそうになる。 私は横から、彼女の腕の下に体を入れて、それを支えた。 「あ…舞園、ちゃ…」 「…大神さん、朝日奈さんは私が送って行きます。具合悪そうだし」 「む、済まぬな…」 セレスさんはこちらを見ていない。 もう十分楽しんだし、好きにしろ、ということだろう。 みんなから庇うように、私は自分の体を朝日奈さんとの間に割って入れる。 今の彼女は、見せものにするべきじゃない。 表情は蕩け、足は震え、分厚いはずのホットパンツがぐっしょりと濡れている。 私だって似たようなもので、顔は火照るし、やっぱり足に力は入らない。 下着だって、もはや意味を成さないほど、ぐちゃぐちゃになっている。 それでも、彼女に比べれば、私なんてまだマシだから。 「…歩けますか、朝日奈さん。とりあえず、私の部屋まで行きましょう。その方が近いし」 彼女にだけ聞こえるように、私は囁いた。 ハッとしたように、彼女は顔を上げて、私を見て。 そして、また瞳に涙を湛える。 「ゴメン…ゴメンね…」 「もう、謝らないでって言ったじゃないですか。ホラ、早く行かないとみんなに気付かれます」 朝日奈さんのホットパンツは、後ろから見ても分かるくらい、濡れて色が変わってしまっていた。 理解している。 私を巻きこんだのは彼女で、そういう意味では彼女も加害者だ、と。 けれどそれ以前に、間違いなく朝日奈さんも被害者だ。 真の加害者に、有無を言わさず従わされただけ。 彼女を恨んだりは、しない。 そして、まもなく私も、そんな加害者の仲間入りを果たそうとしている。 「…あら」 少し遅れて食堂に来た霧切さんと、ばったり蜂合わせる。 「…おはようございます」 「…ええ、おはよう」 霧切さんは、訝しんだように私たち二人を見た。 「あ、あの…朝日奈さん、具合悪くなっちゃって」 「…」 求められる前に説明してしまう。 これじゃ、怪しいだけだ。 でも、彼女の観察眼の前には、これを隠し通すことはできないだろう。 言葉こそなかなか交わせないけれど、彼女の洞察力は十分に理解しているつもりだ。 それに、優しさも。 「…深くは追求しないけれど。辛くなったら私にも言いなさい。出来る限りで、力になるから」 なんとも素っ気なさげにそう言って、彼女はつかつかと食堂の中へ入って行ってしまった。 たぶん、彼女はなんとなくわかっているんだろう。 私と朝日奈さんがどういう状況で、何をされているのか。 その上で、自分から首を突っ込んだりはしない。 それは見捨てるという意味ではなく、選択肢を与えてくれるのだ。 手を差し伸べれば、応えてくれるだけ。 無愛想に見えて、優しいから。 最初に出会った時は誤解してしまったけれど、彼女は本当にいい人で、 だから、こんな感情を持ってしまっている自分を、私は心底嫌悪していた。 「あ、おはよう霧切さん」 朝日奈さんを、早く楽にさせてあげなければいけないのに。 私は足を止めて、食堂を見ていた。 「…苗木君、頬にいちごのジャム」 「え?あっ…」 「まったく、朝からそそっかしいんだから」 彼女がそう言って腰かけたのは、苗木君の正面の席。 さっきまで、私が座っていた椅子。 本当なら、私がいて、今も苗木君と笑い合い、言葉を交わしていたはずの場所に、霧切さんがいる。 奪われた。 そうじゃない、と、自分に言い聞かせる。 苗木君は、誰とでも仲良くなれる人だから。 霧切さんも、悪意や故意で、あそこに座ったわけじゃない。 なのに私は、心の底から湧きあがる黒い感情を抑えられなかった。 苗木君は、私が最初に知り合って、私が最初に仲良くなって、私が―― 「んっ……」 と、横で震える朝日奈さんの体に、我に帰る。 そうだ、汚い嫉妬に塗れている場合じゃない。 まずは彼女を落ち着かせないと。 苗木君がからかわれたのだろう、食卓でドッと笑いが起こる。 その中心に、恥ずかしそうにうつむきながらも楽しそうな苗木君と、穏やかにほほ笑んでいる霧切さんがいる。 後ろ髪を引かれる思いで、私は食堂を出た。 こういう黒い感情を抑える方法を、私は心得ている。 それは、我慢しないことだった。 しっかりと黒い感情に向き合い、それを理解する。 理解していれば、無意識に漏れだすことはない。 自分の鬱屈とした部分を把握したうえで、それに蓋をするのだ。 それが、芸能界にいた頃の、私のやり方。 それが、理性を保っていた頃の、私のやり方。 『ん゛ぁあああっあああ!!!気持ちいい、気持ちいいですぅううっぅあああっっ――!!!』 いつかの自分の悲鳴を思い出して、背筋が震える。 理性を快楽で溶かされた時の、それは私の本音。 あんな声、自分でも初めて聞いた。 今の私は、スイッチ一つで自分の理性を崩壊させることができる。 快楽という名のそのスイッチを、握っているのは他でもないセレスさんだった。 怖い。 自分がどうなってしまうか分からない。 彼女は、次のターゲットとなる二人を、私に教えてくれた。 それを責めるのに、私にも手伝ってもらう、と。 理性がある内は、まだ拒んでいられる。 もし、理性を溶かされたら。 私は彼らに、何をしてしまうのだろうか。 ゾクリ、と、背筋に嫌な感覚が走り抜けて、私はまた我に返り、自分の部屋へと急ぐのだった。 ――そうして、舞園さやかは、最後まで気づかなかった。 その時彼女の背中を駆け抜けたものが、怖気ではなく、むしろ恍惚に近いものだということに。
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トップページ>韓国>震檀学報 『震檀学報』120、2014.4 姜好鮮「無畏国統丁午と元干渉期白蓮結社の展開」 廉仲燮「指空の家系主張に対する検討:高麗における指空の成功要因を中心に」 韓禎訓「朝鮮建国期漕運体制の整備とその意味」 李玲景「朝鮮後期『小学』諺解の活用と普及についての国語学的研究」 慎重珍「辞典学的観点から見た『物名攷』と『才物譜』の影響関係」 文璹永「相範疇の意味と種類に関する諸問題」 金善英「状態動詞と「잘생기다」類」 韓㳓劤先生追念学術大会論文 韓永愚「[得講]韓㳓劤先生の学問世界」 劉承源「韓㳓劤の朝鮮儒教政治論・官僚制論:朝鮮近世論を含めて」 裵亢燮「韓㳓劤の東学農民戦争研究が残した学問的遺産」 閔賢九「韓㳓劤の韓国史学方法論についての考察」 「討論」 『震檀学報』119、2013.12 金杜珍「斗渓李丙燾の韓国古代史体系と歴史地理問題」 白美善「5世紀高句麗地方制度と守事」 鄭景姫「新羅「奈乙・蘿井」祭天遺跡研究」 尹晶「定宗の即位過程と即位名分:1次王子の乱と神懿王后の追尊」 金寿泰「安重根の独立運動と新聞」 徐徹源「韓中日古代説話に現れた異類交流と愛欲の意味」 韓栄奎「19世紀閭巷文人劉在建の『古今法語』編纂意識」 権仁瀚「木簡を通じてみた新羅写経所の風景」 廉仲燮、呉炯萬「韓国伝統歌詞日月光紋の由来考察:日本知恩院所蔵刺繍九条袈裟貼屏風の問題を中心に」 『震檀学報』118、2013.8 論文 金世恩「朝鮮時代真殿儀礼の変化」 宋基中「『高麗史』に収録された二編の蒙古軍牒文」 金周弼「「ㄷ」の口蓋音化と円唇母音化現象の通時的変化と特性」 第41回韓国古典研究シンポジウム 沈慶昊「柳僖の文学と学問に現れた「求是求真」傾向」 洪允杓「『物名考』についての考察」 김지홍「「諺文志」のテキスト分析」 具萬玉「柳僖(1773-1837)の天文暦法論についての再検討」 朴用萬「柳僖の文学思想と詩世界についての考察」 韓正吉「柳僖の『大学』觀研究」 『震檀学報』117、2013.4 羅喜羅「墓誌名を通じて見た高麗時代人々の生死観」 崔異敦「朝鮮初期王室親族の身分的性格:官職進出を中心に」 具都暎「朝鮮前期対明陸路使行の形態と実状」 申恒秀「李瀷と安鼎福の高麗末歴史叙述についての議論と『東史綱目』」 金澔「朝鮮後期「因姦威逼律」の理解と茶山丁若鏞の批判」 金惠淑「眉叟詩の自然感興の特性とその意味」 李丞宰「新羅木簡と百済木簡の表記法」 慎重珍「顔面関連「無条件反射語彙」の形態詞についての研究」 李珍昊「国語平破裂音と鼻音の相互対応についての通時的考察」 『震檀学報』116、2012.12 論文 朴健柱「『節要私記』と『看話決疑論』における看話禅法文とその問題点」 李康漢「高麗後期「忠烈王文散階」の構造と運用:大夫階についての検討を中心に」 盧在軾「19世紀末来華宣教師達の儒教に対する認識:『万国公報』の内容を中心に」 禹成旼「中国歴史学界の新しい解釈に対する批判的検討」 南基鶴「『吾妻鏡』に見える「武威」の諸相」 洪錦洙「環境史(Environmental History)、どうするべきか?」 徐泰龍「定動詞語尾による文章類型」 김창섭「「같다」の意味と基本区分」 鄭承喆「自山安廓の生涯と国語研究」 斗渓李丙燾全集刊行紀年学術会議:斗渓李丙燾史学の再照明 閔賢九「斗渓李丙燾の修学過程と初期学術活動」 李基東「李丙燾先生の韓国古代歴史地理研究とその学術史的位置」 金杜珍「斗渓の史学と韓国古中世思想史探求」 鄭萬祚「斗渓李丙燾の韓国儒学史研究とその意義」 李泰鎮「斗渓李丙燾韓国史学における共同体問題」 『震檀学報』115、2012.8 論文 尹京鎮「『高麗史』地理志高麗初期改号記事の資料的基板と整理方式」 崔明玉「中世韓国語曲用語尾の形態論と音韻論」 林在旭「東京大『琴譜(小倉本)』において試みられた歌曲記譜の新しい方法」 第40回韓国古典研究シンポジウム『研経斎全集』の総合的検討 金文植「成海應が増補した『丁未伝信録』」 姜錫和「成海應の西北辺界意識」 朴晶愛「研経斎成海應の書画趣味と書画観研究:「書画雑識」を中心に」 孫惠莉「文学的形象化を通じて見た成海應の復讎論」 鄭萬祥、禹景燮、金文植、裵祐晟、姜錫和、최경현、朴晶愛、孫惠莉、김동준「討論」 『震檀学報』114、2012.4 金杜珍「高句麗仏性信仰の形成とその様相」 呉洙彰「春香伝に包含された日常の歴史現実と批判意識」 蘇信愛「国語の「△→ㅈ」変化について」 閔賢九「高麗時代韓中交渉史の諸問題:長期持続的高麗王朝と征服的中国北方国家との対立・交流」 李益柱「14世紀後半東アジア国際秩序の変化と高麗-元・明-日本関係」 黄純艶「南宋と金の朝貢体系の中の高麗」 森平雅彦「牧隠李穡のふたつの入元ルート:モンゴル時代高麗-大都間の陸上交通」 成昊慶「元の散曲が高麗後期詩歌に及ぼした影響」 成範重「高麗末知識人の中国体験とその形象化様相」 金亮鎮、張香実「元居住高麗人のための漢語教育:『朴通事』の編纂目的と教育対象を中心に」 李鍾玫「高麗後期対元陶磁交流の類型と性格」 鄭恩雨「高麗後期仏教彫刻と元の影響」 第1部討論 문창로、李益柱、李貞信「[第1テーマ]14世紀後半東アジア国際秩序の変化と高麗-元・明-日本関係」 문창로、黄純艳、박한남、이개석「[第2テーマ]南宋と金の朝貢体系の中の高麗」 第2部討論 李益柱、李康漢、森平雅彦「[第3テーマ]朴隠牧隠李穡のふたつの入元ルート:モンゴル時代高麗-大都間の陸上交通」 李益柱、송기중、이개석「『高麗史』に収録された二編のモンゴル来文について」 第3部討論 권인한、성호경、최재남「[第5テーマ]元の散曲が高麗後期詩歌に及ぼした影響」 권인한、성범중、김동준「[第6テーマ]高麗末知識人の中国体験とその形象化様相」 권인한、김양진、장향실、박진호「[第7テーマ]元居住高麗人のための漢語教育:『朴通事』の編纂目的と教育対象を中心に」 第4部討論 이송란、이종민、장남원「[第8テーマ]高麗後期対元陶磁交流の類型と性格」 이송란、정은우、김리나「[第9テーマ]高麗後期仏教彫刻と元の影響」 「第5部討論総合」 『震檀学報』113、2011.12 李京燮「韓国古代木簡文化の起源について」 朴建柱「普照禅に対する真覚慧諶の看話禅偽造」 周炅美「高麗時代月精寺石塔出土舎利荘厳具再論」 許泰玖「丙子胡乱江華島陥落の原因と責任者処罰:金慶徵敗戦責任論の再検討を中心に」 金聖惠「1711年朝鮮通信使「登城行列図」の吹打手研究」 文賢雅「判決文内容分析を通じて見た朝鮮後期妻殺害事件の再解釈:『秋官志』事例を中心に」 崔圭順「伝統喪礼中「不紐」の挑戦における適用」 韓相禱「日帝侵略期中国社会の「韓国」認識:韓国関連新聞記事を中心に」 盧在軾「近代中国女性問題についての認識研究:『万国公報』の内容を中心に」 李建植「『新編集成馬医方』の郷名表記解読」 『震檀学報』112、2011.8 金徳原「新羅国学の設立とその主導勢力」 金晴江「現代韓国の映画再建議論とコメディー映画の政治的含意(1945-60):明瞭で愉快な「発展大韓民国」の創出」 姜信沆「韓国漢字音(15・16世紀現実音)と魏晋南北朝時代音との比較」 李玲景「『東国新続三綱行実図』諺解の性格について」 成基玉「「操舟候風歌」創作の歴史的状況と作品理解の方向:李蒔の「操舟候風歌」と光海混政期の安東士林(2)」 南東信「『桂苑筆耕集』의の文化史的理解」 崔宰栄「『桂苑筆耕集』と唐後期進奏院の機能」 張日圭「『桂苑筆耕集』の編纂と史料的価値」 金東俊「帰国期崔致遠漢詩の自負と壮心について:『桂苑筆耕』巻20に収録された30首についての読解」 南在澈「孤雲崔致遠の晩唐詩壇における位相:唐詩人との在唐期交友様相を中心に」 『震檀学報』111、2011.4 張彰恩「6世紀中盤漢江流域争奪戦と菅山城戦闘」 郭丞勲「『殊異伝』の撰述本と伝承研究」 崔起栄「1910年代李大為の在米民族運動」 韓相禱「第二次世界大戦期中国政府の戦後韓半島処理構想と臨時政府商人議論」 金栄美「人民学校教師となった「白人(흰패)」の娘達:口述を通じて見た解放直後38以北(襄陽・束草地域)住民社会と教育改革」 朱秀浣「弥勒椅坐像の図像的起源についての研究:アジャンタ十七窟「忉利天降下」図像を中心に」 崔載南「白雲峰登臨時調の変移様相と現実性検討」 兪弼在「後期中世国語「거, 아/어」系語尾の声調と形態分析」 『震檀学報』110、2010.12 盧鏞弼「韓国古代文字学と訓詁学の発達」 曺凡煥「新羅下代憲徳王の副君設置とその政治的意味」 崔異敦「朝鮮初期郷吏の地位と身分」 李仙喜「壬辰倭乱時期咸陽守令の戦乱対処:『孤臺日録』を中心に」 金壽泰「ウィリアム・グリフィスの韓国近代史認識」 李晟遠「古代中国の医と楽」 姜熺静「柳宗悦の石窟庵認識:20世紀初日本人知識人による最初の石窟庵論」 金秀卿「借字表記「内」と郷歌の解釈」 鄭仁浩「中世語「ㅆ・ㆅ」についての考察」 成基玉「「操舟候風歌」解釈の問題点:李蒔の「操舟候風歌」と光海混政期の安東士林(1)」 李鍾黙「鄭東愈とその一門の著述」 鄭豪薫「『昼永編』の資料構成と知識世界」 周永河「『昼永編』に内包された鄭東愈の当代民俗認識」 鄭承喆「『昼永編』の国語研究」 具萬玉「『昼永編』を通じて見た鄭東愈(1744-1808)の自然認識」 『震檀学報』109、2010.6 李乃沃「百済金銅大香炉の思想」 金聖範「羅州伏岩里遺跡出土木簡の判読と意味」 李康漢「14世紀高麗太廟の革新と変遷」 尹京鎮「高麗後期北界州鎮の海島入保と出陸僑寓」 金栄美「初期韓日会談における知識人官僚の役割とアイデンティティ:予備~3次会談を中心に」 李成珪「漢代閏年の財政収支と兵・徭役の調整」 崔宰栄「唐前期長安城の構造と治安組織」 韓炅澔「古代韓半島固有名詞表記に現れた「秦」「夬」韻の語尾「*-s」の痕跡について」 李丞宰「再雕本『華厳経』に 附載された巻末音義の起源」 金善英「内部感覚用言についての研究」 朴賢正、金貞男「韓国語語彙教育のための用言の制約活用形と特殊活用形研究」 『震檀学報』108、2009.12 金文植「楓石徐有榘の学問的背景」 曺蒼録「『林園経済志』の纂述背景と類書としての特徴」 李憲昶「『林園経済志』の経済学」 廉定燮「『林園経済志』「本利志」の農政改善論」 장진성「朝鮮後期美術と『林園経済志』:朝鮮後期古董書画収集及び鑑賞現状と関連して」 홍나영「朝鮮後期服飾と林園経済志」 차경희「『林園経済志』の中の朝鮮後期の飲食」 権五栄「18世紀洛論の学風と思想の継承様相」 진재교「元重挙の「安龍福伝」研究:「安龍福」を記憶する方式」 백두현「訓民正音を活用した朝鮮時代の人民統治」 『震檀学報』107、2009.6 曺永祿「義通宝雲の浙東求法と伝教:呉越国後期法眼・天台宗と高麗仏教」 閔賢九「高麗恭愍王代中葉の政治的変動」 盧鏞弼「統一新羅の田農事」 李賢珍「英正祖代毓祥宮の造成と運営」 李賢煕「「조초」の文法史」 尹容善「朝鮮後期の口訣使用についての考察:『句読解法』の分析を中心に」 李建植「『朝鮮地誌資料』京畿道広州郡収録地名表記の分析的研究:漢字地名表記の再解釈現象を中心に」 南在澈「隋唐漢詩に現れた遼東における麗隋戦争とその傷痕」 渡辺直紀「植民地朝鮮における「満州」談論と政治的無意識:文化評論家林和の1940年代前半の議論を中心に」 『震檀学報』106、2008.12 이숙인「申師任堂談論の系譜学(1):近代以前」 禹景燮「宋時烈の許衡認識と文廟黜享論」 鄭東暻「時間語「나절」の意味についての通時的考察」 김창섭「文語と口語における助詞「의」の文法」 呂運弼「『東文選』詩文の出処についての考察」 鄭炳説「朝鮮後期ハングル・出版盛行の媒体史的意味」 鄭求福「『文献備考』の資料的性格と史学史的意味」 金鍾洙「『東国文献備考』「兵考」分析」 宋亮燮「『東国文献備考』「田賦考」に現れた社会経済政策と理念」 문중양「『東国・増訂・増補文献備考』「象緯考」の編纂と英正祖代の韓国天文学」 『震檀学報』105、2008.6 崔鈆植「「仏国寺西石塔重修形止記」の再構成を通じて見た仏国寺石塔重修関連内容の再検討」 崔鍾奭「対蒙抗争・元干渉期山城海島入保策の施行と治所城位相の変化」 李康漢「高麗忠宣王の国情及び「救済」復元」 姜文植「太宗~世宗代許稠の礼制整備と礼意識」 李鍾黙「卞季良の人材養成政策」 金文植「修堂李南挂の救国方案」 李勇「「-져」の歴史的考察」 盧京姫「17世紀初朝鮮詩の中国伝播についての朝鮮文壇の二重的態度:文才誇示欲求と詩文流出に対する警戒」 『震檀学報』104、2007.12 呉江原「西団山文化と吉林中部地域初期鉄器文化諸類型間の文化的相関関係」 張日圭「羅末麗初知識人の政治理念と訓要十条」 金炳坤「江華禅源寺と神泥洞仮闕の位置比定のための基礎資料の分析」 宋源容「国語の単語形成形態再論」 鄭承結「被動詞と被動接尾辞」 成吴慶「詞脳歌の性格及び起源についての考察」 李鍾黙「朝鮮時代女性ど児童の漢詩享有と二重言語体系(Diaglosia)」 朴光用「『東国文献備考』編纂の歴史的背景」 李鍾範「『東国文献備考』編纂の歴史的背景討論文」 玉水最「『東国文献備考』についての書誌的考察」 金栄鎮「『東国文献備考』についての書誌的考察討論文」 金文植「『東国文献備考』「礼考」の資料的特徴」 金芝英「『東国文献備考』「礼考」の書誌的考特徴討論文」 鄭勝謨「『東国文献備考』民俗資料の特徴」 李煜「『東国文献備考』民俗資料の特徴討論文」 『震檀学報』103、2007.6 李南奭「漢城期百済石室墳の再認識」 辺東明「金台鉉の『東国文鑑』編纂」 許太榕「17世紀末~18世紀初中華継承意識の形成と正当論の教化」 金東旭「18世紀旧水原邑内住民構成と住宅規模」 李根浩「英祖代中批除授の内容と性格」 金玄「非円唇母音化と「ㅗ」の低舌化」 盧明姫「漢字語の語彙範疇と内的構造」 金周弼「19世紀末国漢文の性格と意味」 黄載文「『大東詩選』の編纂経緯と文学史的位相」 文昌魯「「新羅中古期地方統治組織」研究の動向と課題」 『震檀学報』102、2006.12 李廷斌「3世紀高句麗諸加会議と国政運営」 吉基泰「百済泗沘期の阿弥陀信仰」 金栄官「百済復興軍の戦略と戦術」 崔鍾奭「高麗前期築城の特徴と治所城の形成」 朴賢淳「16世紀礼安県士族層と士族社会の構成」 李秉騏「「-겟-」の文法化と確定性」 尹容善「『小学諺解』の口訣体系についての検討」 李益柱「『牧隠集』の刊行と史料的価値」 洪栄義「『牧隠集』の刊行と史料的価値討論文」 馬宗楽「牧隠李穡の生涯と歴史意識」 辺東明「牧隠李穡の生涯と歴史意識討論文」 都賢喆「李穡の経学観とその志向」 厳連錫「李穡の経学観とその志向討論文」 呂運弼「牧隠詩の多様な志向と面貌」 李鍾黙「牧隠詩の多様な志向と面貌討論文」 高惠玲「『牧隠集』を通じて見た李穡の仏教との関係」 許興植「『牧隠集』を通じて見た李穡の仏教との関係討論文」 「討論」 『震檀学報』101、2006.6 金泰植「韓国古代諸国の対外交易:加耶を中心に」 金昌謙「強首と新羅社会」 呂聖九「新羅人の出家と度僧」 尹京鎮「高麗初期十道制の施行と運営体系」 朴鎔辰「高麗中期華厳文類の編纂とその思想的伝承」 金載名「高麗時代の胥吏内侍」 鄭枖根「高麗前期の駅属層と地方行政単位としての駅」 李賢珍「朝鮮時代宗廟の神主・位版題式の変化」 禹景燮「宋時烈の華夷論と朝鮮中華主義の成立」 한보람「1880年代朝鮮政府の開化政策のための国際情報収集」 鄭仁浩「第二音節以下の「아」変化についての一考察」 白丞鎬「樊巌蔡済恭の文字政治」 張裕昇「朝鮮後期西北文人集団の性格」 1-20 21-40 41-60 61-80 81-100 101-120
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Feldwebel 第1話 <1> オーバル・ブラントは全く生きた心地がしなかった。 ヴェルダンやソンム、東部戦線以上に彼はこれ程の絶望を経験した事はない。むしろ今の 彼は、自分の身に起こっている出来事と比べれば、二度の世界大戦など些事に過ぎなかった。 悲しみに耐え切れない、と生体が判断した時、人間の心や記憶は一時的に飛ばされる事が あるらしい。今のブラントがまさにその状態にあった。 何があっても常に自信と余裕に満ち溢れた灰色の瞳に生気はなく、四十代後半になるとい うのに一切の衰えを感じさせない程にまで鍛え込まれた上背のある肉体は弛緩し切っている。 しっかりとした足腰で、どんな重装備を身に付けていても戦場を機敏に動き回る彼は誰か らも頼りにされる最古参の兵士だが、今はその見る影もなく、力なく項垂れている。 破壊され尽くした伯林の街並みは戦前の面影を全く残していない。とは言っても、一九四 三年十一月十八日と十九日の両日で、独逸民族の首都はその殆どを廃墟にされた。伯林の受 難の日々は今に始まった事ではない。 ブラントは破壊され瓦礫でほぼ埋め尽くされた道路上に放置されたⅣ号戦車の車体側面の 転輪に背を預け、地面に足を投げ出して座っていた。彼は二人の若い兵士を両脇に抱えてい たが、どちらも顔は蝋燭の様に青白く、事切れていた。 既に息絶えている二人の兵士はまだ子供といっても差し支えない年齢だ。あどけない容姿 に与えられた草臥れた軍装が似合わなかった。 大き過ぎる軍服に貧弱な火器を与えられ、戦場に送り出された彼らは少年兵だった。まだ 年の頃は十代半ばで、決して死ぬ為に生まれてきた訳ではない。やりたい事が一杯あっただ ろうし、夢だってあった筈だ。なのに彼らは大人達が勝手に始めた戦争で若い命を散らして しまった。そして今はこうして、その幼くして天に召された御魂を慰める様に、ブラントが その冷たくなった身体を両脇に抱えていた。 ヒュルヒュルという榴弾の不吉な飛翔音が聞こえたか思うと、次の瞬間、彼の直ぐ近くに 落下し、轟音と共に火柱が空高く吹きあがった。 大量の土砂と破片が降り注ぎ、軍服の裾が爆風に煽られるが、ブラントは無関心だった。 その間にも砲弾の嵐は一層強まり、周囲には鉄の雨が降り注いでいた。 一体どれぐらい続いたのだろうか。周囲一帯は完全に砲弾で掘り起こされ、焼き尽くされ、 破壊され尽くしていた。だが彼は全くの無傷だった。目深に被っているヘルメットも山岳帽さ えも飛ばされなかった。 奇跡、だろうか。それとも単に彼の悪運が強いだけなのかもしれない。やがて煙の向うか ら圧倒的な質量を持った鉄の塊が、五月蝿い排気音と履帯の音を響かせてやってきた。 ソ連軍のT34中戦車だった。単体の強さはⅥ号戦車ティーガーには劣るが、生身の歩兵 には途轍もない脅威だ。それがブラントの存在に気付かず瓦礫を踏み拉きながら進んで来る。 このまま死んだ振りをしていれば彼らは気付かずに過ぎ去ってしまうだろう。だが、ブラ ントの身体は鋼鉄の獣の接近を感知すると、今までの虚脱状態から嘘の様に立ち直っていた。 絶望のどん底にある彼は死のうと思っていた。その思いは今も変らないが、方法を少しだ け変える事にしただけだ。近くに置いてあった三個の三kg爆薬が詰まった二つの工兵用の バッグを無造作に手繰り寄せると襷掛けにし、皿型対戦車地雷を胸に抱いて立ち上がった 今まで死体だとばかり思っていた独逸兵がむくりと立ち上がると、T34の車体前面の機 銃が慌てて火を吹いたが、少しばかり遅かった。 立ち上がったブラントは既にT34に向って突進していた。機銃弾が掠めるが、今の彼は 恐怖を微塵も感じていない。顔には出さないが、むしろ狂喜さえしていた。 憎むべきは勝算のない戦争を全世界に向けて吹っ掛けたヒトラーだろうか。それとも彼を 権力の座に押し上げてしまった無能な大衆だろうか。勿論、その大衆の中にはブラント自身 も含まれている。戦争に駆り出される者、駆り出す者、どちらも被害者であって加害者だ。 ヒトラーも加害者でありながら被害者だ。彼も凄惨な第一次大戦を経験した戦争世代の人 間であり、あの何時終るとも知れない塹壕戦で青春を散らしたのだ。若きアドルフの人生を 変えたのは墺太利・洪牙利ニ重帝国が起こした戦争だ。そして老いたオーバルと、その妻と 六人の息子と二人の娘の人生を変えたのも独逸第三帝国が起こした戦争だ。 誰が善で、誰が悪だとかが問題なのではない。誰が始め、誰が終らすのかが問題ではない。 戦争にも問題がある訳ではない。既にこれは人間の長い歴史が実証する様に、自然現象の様 なものなのだ。避けられないのである。人間が生きる限り、避けられない問題なのである。 本当に憎むべきは争わずにはいられない人間の生物としての性(さが)である。だがその 性がある故に人間は生物として成り立っているのである。 この大いなる矛盾が、この老兵を遣る瀬無さの淵に追いやっていた。彼にとってはもう全 てが如何でも良くなっていた。だから死こそが彼に残された最期の癒しだった。 ブラントはT34の車体側面に回り込むと、後部エンジングリルの上に攀じ登った。そし て胸に抱いた対戦車地雷の信管を切った。信管がジューッという音を立てて燃焼し始める。 あと数秒で爆発するだろう。砲塔ハッチが開いて、戦車長らしきソ連兵が拳銃を片手に顔 を覗かせた。自分の戦車に攀じ登った不届き者の独逸兵を排除しようというのだろう。 だが手遅れだった。彼が顔を覗かせた瞬間、老兵が胸に抱いていた地雷が爆発した。貧弱 なエンジングリルの上で起こった爆発は、この鉄の怪物を黙らせるには充分過ぎた。 爆発はエンジングリルを突き破ってエンジンそのものを破壊した。そして燃料に瞬く間に 燃え移り、搭載している砲弾をも巻き込んだ。 死にたがりの老兵共々、鉄の化物は爆発四散し、廃墟と化した伯林にまた瓦礫が増えた。 <2> 微かに香る刺激臭。これは、消毒液か何かだろう。 深淵に沈んでいたブラントの意識はその匂いによって急速に浮上していった。 目覚めたブラントは、見知らぬ部屋で寝かされていた。 白い天井、白い壁、白いシーツ、白一色で埋め尽くされた部屋が病院の一室であると気付 くのにそう掛からなかった。 対戦車地雷を抱いて自爆した筈なのに生きているとは、一体自分の悪運はどれだけ強いの だろうか。縦しんば生きていたとしても、戦車を破壊するだけの威力を秘めている対戦車地 雷の爆発に巻き込まれたのだから、手足の一本は確実に吹き飛ぶ筈だ。なのに自分の身体は 外傷らしい外傷を負ってはいなくて、右腕に点滴が刺されているだけだった。 訳が判らなかった。だが、何故、自分が生きているのかという疑問を抱く前に、自分が生 きているという事実にブラントは絶望していた。 全てを終わりにしたかった。なのに終われずにいる。本気で自らの死を願ったのはあれが 最初で最期だった。薬莢に残った不完全燃焼の炸薬の様に燻っているこの想いを何処にぶつ ければ良いのだろうか。 ただ呆然と、ブラントは白い天井を見詰めていた。今の彼の魂は肉体から乖離していた。 だから近付く誰かの気配に気付かなかった。 「具合は如何かね?」 いきなり目の前に現れたのは、犬の顔だった。それも典型的なジャーマン・シェパードだ。 ブラントは愛犬家で、特に黄褐色と茶褐色のニ枚毛のシェパードが好きだったが、この時の 彼は全くの無反応だった。 ただ、ぼんやりとした目でシェパードの顔を眺めていた。 「おや、私の顔を見ても驚かないとは……変っているな」 そう言ってシェパードの顔は視界外に引っ込んだ。ブラントは何気なくそれを目で追った。 ベッドの傍に白衣の男が佇んでいるのが見えた。恐らく医者だろう。しかし、先程のシェパードは 一体何だろうか。そもそも病院へペットを連れ込むのは禁止されている筈だ。 視線を上にずらすと、その医者がかなりの変り者である事が判ると同時に、シェパードの 謎も解けた。彼は如何いう訳か、シェパードの被り物を頭に被っていた。 初めは犬が喋っているのではないかと思ったが、それは単に馬鹿げた錯覚に過ぎなかった。 犬が言葉を喋る筈がない。ましてや訛りのない、高い教養の片鱗を窺わせる様な完璧な発音 の独逸語を、犬が喋る筈がないのだ。 だがブラントにそう錯覚させるだけ、その医者が被っているシェパードの被り物はよく作 られていた。毛並みの質感や黒く湿った鼻、瞳の輝きなどは本物そっくりだ。 「まぁ、落ち着いているのは良い事だ。これが小娘のヒトだったらギャーギャー騒いで、五 月蝿くてかなわんからね。君が成熟した男のヒトで、診る方としては助かったよ」 シェパードの被り物をした医者は、そう言って白い絹の手袋を嵌めた手に持っていたファ イルケースを捲り出した。 「身体の何処かが痛むとか、気分が余り良くなかったりするかね?」 簡単な質問をされたので、ブラントは首を横に微かに振る事で答えた。 「うむ、結構結構。これなら落愕病の可能性も無い……明日には退院出来るな」 満足そうに頷き、一頻りカルテに何か書き込むと、シェパードの医者はケースを脇に挟んだ。 「それでは、私はこれで失礼する。何かあったら其処に置いてあるベルを鳴らしてくれ給え」 シェパードの医者は足早に病室を立ち去ろうとしたが、ブラントは彼を呼び止めていた。 「…………待ってくれ」 シェパードの医者は立ち止まり、振り返った。勿論、その被り物をした顔からは何の表情も 読み取れなかった 「何だね?」 一瞬、犬の被り物が怪訝そうな表情をしたのは気の所為だろうか。ブラントは構わず続けた。 「何故、ジャーマン・シェパードなんだ? 別に被るならば他の犬でも良いだろう?」 自分の好きな犬種の被り物をしているこの奇妙な医者に、ブラントは少なからず興味を覚え ていた。精巧に作られた犬の被り物をするぐらいならば、彼は犬が好きなのかもしれない。ま さか犬という単語を聞いただけでも嫌悪する様な人間でもないだろう。少しは関心がある筈だ。 「アンタはジャーマン・シェパードが好きなのか?」 「……やはり君も他のヒトと同様だな」 医者は何かに呆れた様子で、『やれやれ』と肩を竦める素振りを見せると、ベッドに引き返 した。ブラントは何事かと思ったが、彼はベッドの傍で跪いた。 「触ってみ給え」 何を、と聞こうと思ったが、如何やら彼はこの犬の被り物を自慢したい様だ。余りにも精巧 に作られているので、その出来栄えの素晴らしさを直に触らせる事で教えようというのだろう。 やはり彼は犬が好きな様だ。特にジャーマン・シェパードが。 ブラントはそっと被り物の長い吻に触れた。毛並みは滑々としていて温かかった。鼻もちゃ んと湿っており、健康的な犬の見本の様だった。瞳も綺麗に澄んでいて、年若い犬だと判った。 髭も綺麗に切り揃えられていて大変上品でよろしい。 「驚いた……よく出来ているな」 余りの出来栄えの良さにブラントは感嘆しながらも被り物を触る手を休めない。一頻り長い 吻を撫でると、唇を捲り、その下の鋭く尖れた白い牙と桜色の歯茎を確かめた。虫歯は一本も ないし、歯周病などの歯茎の病気もない。この被り物を製作するにあたって、如何やら余程優 れたシェパードを見本にしたのだろう。 被り物だけでこれだけの熱意を感じ取れるのだ。この医者は無類のジャーマン・シェパード 好きと見做して間違いない。首筋まで作られており、其処も柔らかな毛並みに覆われていた。 「君は私の顔が被り物だと思っているのかね?」 医者が言葉を発するのに合わせてシェパードの口が動いた。凄い、としか言い様がない。 「生憎と私のこの顔は被り物ではない。それが証拠に……」 シェパードの口が大きく開いた。上顎と下顎にびっしりと綺麗に生え揃った真っ白な牙、垂 れ下がる赤い口蓋垂とその置くまで作り込まれているのだな、と思ったが、此処で大きな違和 感に気付くと、生温かい吐息が顔に吹き掛かった。 「………これで判ってくれたかな?」 医者はすっと立ち上がると、白衣の襟元を正した。ブラントは信じられないといった表情を 浮かべており、『犬の顔をした医者』はそんな彼の様子を見て満足そうに唇の端を釣り上げた。 「私の名前はランディ・メイジャー。ヒト専門の『獣医』だ。君がジャーマン・シェパードと 呼ぶこの私の顔は、シュティファニッツ種独特のものだよ。覚えておき給え」 ブラントは聞きたい事が山ほどあったが、ランディ・メイジャーと名乗る『犬の顔をした医 者』は颯爽と長身に纏った白衣を翻して病室から去ろうとした。 「そうそう。君に一つだけ忠告しておこう。この世界は君らヒトにとっては大変辛いものだ。 もし、この世界で生活するのが嫌ならば其処の引き出しを開けてみ給え。中には物凄く気持ち 良く眠れる薬が入っている。それを飲んで寝れば、君は永遠の心地良い眠りを楽しめるだろう」 病室の扉を開け、閉める間際にそう言った。そして扉が閉まった。その閉まる音は意外と重 いものだった。多分、分厚い鉄製の扉なのだろう。人間の目線の高さ辺りに覗き窓らしきもの と、下には小さな隙間が設けられていた。其処から食器などを出し入れしたりするに違いない。 メイジャーが出て直ぐ、鍵の掛かる様な音が聞こえた。 ふと、窓辺に目をやった。白いレースのカーテンの向こうには、見るからに頑丈そうな太い 鉄格子が嵌っているのが見えた。 それらからブラントは一つの結論に至った。此処は紛れもない病室だが、刑務所の医療病棟 か精神に何らかの異常を来たしている患者を隔離する為の特別なものに似ている。 生憎と自分には自殺願望があるが、それは身も心も張り裂けんばかりの深い悲しみに襲われ たからであって、自分の身に起こった出来事が他の誰かに起これば、必ずその誰かも自分の様 に死を熱烈に望むと思う。それ程の悲しい出来事があったのだ。断じて自分は精神を病んでい る訳ではない。 だから此処は精神病患者の為の病室ではない。ならば、負傷した捕虜を収容する為の病院だ ろうか。だが連合国のみならず、世界中のどこを探してもあの様な『犬の顔をした』医者がいるとは 思えない。もしいたとしても、医者になるよりもサーカス団員になっているだろう。 考えても答は出るものではなかった。結論を導き出すだけの諸要素が圧倒的に不足している。 それでは無理だ。アインシュタインだって零から相対性理論を考えついた訳ではない。 「……何が如何なっているんだ?」 ブラントは溜め息をつくと、枕に頭を預け、瞼を閉じた。 取り敢えず考えるのは後だ。今は色んな事で何も考えられない。直ぐに彼は微睡み、深い眠 りに落ちていった。 既に彼は先程の奇妙なメイジャーの言葉を忘れ、つい先程まであった死への欲望が薄れてい た。それに気が付く事なく、彼の意識は暗闇に霧散していった。 それが果たして彼にとっては幸福なのかは誰も判らない。メイジャーの言葉を忘れる事無く、 素直にベッドの傍にある小さな机の上に置かれている小物入れの引き出しの中から、彼の言葉 通りの薬を飲んでから眠りに就いた方が良かったのかもしれない。 その安らかな永遠の眠りに就く機会を逃した事を、オーバル・ブラントが後悔する日がやが て来るかもしれないが、それは彼自身にも、誰にも判らない。
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変だな、と思った。 膠着状態。今の僕達はまさにそれだ。 誰かを殺し、それを誰にも見破られずに貫き通せば、他の全員の命と引き換えに自分が卒業。 そこには、会ったばかりのはずの他人に対する警戒心や、他人を犠牲する自分に対する嫌悪感があったのだろう。 もしかしたら、他の生徒の目を欺いて完全な殺人を犯す、ということの難易度に身構えていた結果かもしれない。 とにかく僕達は、そのルールに縛られずにこの学園生活を送っていた。 誰も殺さず、けれど仲良しこよしというわけでもなく。 妙な連帯意識を結ぶ相手もいれば、絶えず警戒を張り巡らせている人もいる。 それでも、その妙な距離感を、僕達は享受していたのだ。 そうして、数か月。 たった数か月と言えばそれまでだけど、それでもその間に互いの距離感は把握していた。 だから。 「ぁ…苗木、君」 彼女に廊下で呼びとめられた時、僕は変だな、と、そう思ったんだ。 「…舞園さん。どうしたの?」 「…あ、いえ…その…」 一目見て分かるくらい、鈍い僕でも警戒心を抱いてしまうくらいに、彼女は様子がおかしかった。 息が荒く、耳元までその吸気の音が聞こえてくる。 肩が上下するたびに、そのふくよかな胸が強調されるようだ。 顔は赤く、熱にでも浮かされているのかのように目は虚ろ。 そして、 鼻孔を突く、僕の知らない匂い。 蕩けるように甘く、腐ったように粘り、溶かされるほど扇情的なその匂いの発生源は、紛れもなく目の前の彼女からだった。 彼女とは比較的、友好関係にあるはずだった。 同じ中学だったということもあるし、なにより彼女は助かることよりも、ここでどう生活するかを考えていた。 他の誰かを出し抜くよりも、現状を受け入れることに尽力をする人だったのだ。 「舞園さん、顔…真っ赤だよ?どうしたの?」 「あっ、いえっ、これは、その…」 だから、変だな、とは思ったけれど。 僕は警戒を、解いた。 そう言えば今朝の食堂で、ひどく具合が悪そうにしていたことを思い出す。 「まさか、熱があるんじゃ…」 と、歩み寄ろうとした僕から遠ざかる様に、 「っ…!」 舞園さんは距離を取った。 「?」 「あっ…す、すみません」 「や、謝られるようなことじゃないけど…ホントに大丈夫?」 足運びもおぼつかないようで、距離を取ったはいいものの、ふらついている。 本当に、熱に浮かされているとしか思えなくて。 僕は無遠慮にも、一歩踏み出したんだ。 「な、なえぎ、く…」 す、と腕を伸ばし、舞園さんの額に当てる。 「んっ…」 ちょっと無遠慮かなとも思ったけれど、熱があるなら一大事だ。 実際彼女の額は少し汗ばんでいて、燃えるように熱い。 「すごい熱だよ。安静にしてなきゃ…歩ける?保健室まで行こう」 「……」 手を胸のあたりに当てて、腰を揺らす。 その仕種が艶めかしくて、僕は唾を飲んだ。 何を考えているんだ、僕は。 相手はアイドルで、病人で、そして大切なクラスメイトだ。 こんな気持ち、失礼以外の何物でも―― 「わかりました、行きましょう」 と。 不意に彼女がそう言った。 「え?あ」 するり、と、僕の指に彼女の手が絡みつく。 艶めかしく、しっとりとした彼女の指が、まるで逃がさないとでも言うかのように、指と指の間にしがみついた。 「ま、舞園さん…?」 熱に浮かされた彼女の顔が、一瞬だけ陰ったように見えた。 けれど、それも気のせいだったのか。 「付いてきてくれますか、苗木君」 「う、うん…」 再び見た彼女の貌は、いつものように微笑んでいた。 「あれ?あの、舞園さん、こっちは保健室じゃ――」 ―――――――――――――――――――――― 『弾丸論破 鬼畜セレスの話(R-18) vs霧切』 ―――――――――――――――――――――― 「目新しい食べ物は追加されてなかったね…」 「まあ文句言ってもしゃーないべ。レパートリーは豊富だし、味も文句ないし」 「断言しよう!食堂には、季節ごとに旬の食材が入荷されているから、しばらくは同じ――」 「…それ、ずっと前に分かってることだろ」 恒例と化した、朝食会。 提案したのが誰で、それがいつだったのか、覚えている人間はどれくらいいるだろう。 それほど、ずっと前から続けられていたことだった。 生活環境を崩してしまわないように、全員で食堂にそろって朝食を取る。 その後、この共同生活の中で気が付いたことや、気になっている事項を上げて、解散。 既に形骸化した、そんな儀式めいた行事だ。 そんな中。 「――ふっ、…!!……、ん、っ…ぁぶ…っ」 想定以上の感覚に、思わず口の中のものを吐き出しそうになってしまい、私は慌てて手で押さえた。 「…舞園さん?」 正面に座っていた苗木君が、気付いて声をかけてくれる。 「どうしたの?吐きそう…?」 彼にだけは、気取られるわけにはいかない。 心配をかけたくないという気持ちもあるけれど、それ以上に。 既に汚れ、落ちてしまった私を、知られたくなかった。 まともに咀嚼していないものを無理矢理飲み込んで、私は笑顔を作り上げる。 「…大丈夫、です。すみません…ちょっと、苦手な味だったから」 「そう?…あ、じゃあ僕のパスタと交換しようよ。まだ、フォークはつけてないからさ」 彼は穏やかにほほ笑み、自分の平皿を指す。 茹でたパスタにレトルトのソースをかけただけの簡単なものだったが、確かに目の前のトーストよりはいい。 「…ありがとう、苗木君」 隣にいたセレスさんが、底意地の悪い笑みを向けてきた。 二つ隣の、セレスさんを挟んで向こう側の席では、朝日奈さんがご飯を流し込んでいる。 「おいおい朝日奈…そんな、オメェ、飯が逃げるわけでもねえんだし」 「朝日奈よ…ゆっくり噛まなければ、胃を悪くするぞ」 周囲の忠告も無視して、彼女は本当に料理を『飲み込んで』いた。 たぶん、アレが彼女が身につけた方法なんだろう。 確かにあれなら、あまり口の中は刺激されない。 それに、思わず零れる声も、 「んっ…ぐ…ふぅ、っ!…」 飲み込んで、誤魔化せるだろう。 けれど、私はそれを真似するわけにはいかなかった。 なりふり構っている場合じゃないのは理解している。 それでも。 「あはは…朝日奈さん、相変わらずすごい勢いだね」 目の前のこの少年の前で、はしたない姿は晒せない。 おそらく、それをわかってセレスさんは、私を苗木君の正面に座らせたのだろう。 震える手でフォークを握り、数本パスタを巻き付け、口の中へ。 唇にかするだけで、くすぐられたかのような甘い刺激が奔る。 まるで、生きた触手を食べているかのように感じた。 意思を持っているのではないかと疑うほど、その紐は私の舌にぬるぬると絡みついて、 「――ん、ふ…あ゛っ…!」 耐えきれず、私は横にあった牛乳で、それを流し込む。 「…舞園さん?パスタもダメだった…?」 また、彼が心配そうに覗きこんでくる。 ダメだ、悟られてはいけない。 「大丈夫…です…おいしい、からっ…」 テーブルの下で、これでもかというくらい、太ももに爪を突き立てた。 痛みがあれば、多少は紛らわせる。 出演してきた番組で、催眠術を見たことはあった。 それでも自分が実際にかけられたことは無くて、どうせ眉唾なものだろうと決めつけていた。 メンバーの一人が、実際に自分がかかった時のことを説明しても。 個人差だってあるだろうし、自分がかかっていると思い込んでいるだけなんだ、と。 私と朝日奈さんの口の中は、今は女性器となっている。 実際にそうなっているのではなく、性器としての機能なんかない。 ただ、催眠術でそう認識させられているのだ。 不思議なもので、自分が催眠にかかっているとわかっても、それは解けるものではなかった。 それどころかいっそう感覚を鋭敏化させ、 唇は陰唇に、口蓋はGスポットに、そして、 「ん、むっ…ふ、んぅ…っ!、!…っ」 ぬらぬらとパスタが纏わりつく舌からは、まるでクリトリスを細い紐で擦り上げられるかのような快感が、脳髄に届く。 ゾクゾクと脊髄を駆け抜けて、頭からアソコまで、電気のように鋭い性感が走り抜ける。 思わず背筋を震わせるも、表情にはおくびにも出すわけにはいかない。 口の中にあるものは、食べ物ではなく、もはや異物だ。 味すらもまともに感じられない。 咀嚼しなければ飲み込めず、けれども少しでも口を動かせば舌が――クリトリスが過敏に反応する。 既に、三回は絶頂した。 その度に満足げにセレスさんは笑い、苗木君には訝しげな目で見られる。 でも、私はまだ良い方だ。 『ゼロと言われない限りイケない』という催眠も継続している朝日奈さんには、地獄のような時間だろう。 絶頂できないことが、ではない。 「どこからか入ってくる食糧でしか、外の季節が分からないなんて…ね」 「どうだかな。それすらも怪しいものだ」 「どういうこと?」 「秋の食材が来たから秋だ、と…そう思い込むことも、黒幕の手のうちかもしれないだろう」 「意図的に季節感をずらされてる、ってわけ?」 「まあ…可能性も『ゼロ』じゃないだろうな」 「――ふぶっ…!!!」 ガシャン、と、大きな音を立てて、床に食器が落ちる。 朝日奈さんは体を大きく痙攣させて、意思のない絶頂を強制された。 幸か不幸か、彼女のその様子に気が付く人はおらず、 「あーあ、なにやってんだよ朝日奈…」 「あ、僕、拭くもの持ってくるよ」 落ちた皿に気を取られているのがほとんどだった。 「あ……、かは…っ…」 酸素を求めるように開かれた唇は震え、愛液のような涎を垂らす。 その呼吸すら刺激が強いのか、ピンと背筋を反らしたまま、切なそうに目を潤ませている。 どれだけ刺激されてもイケないのに、何の前触れもなく絶頂が訪れる。 その辛さを思い、私は目をつぶった。 彼女に比べれば、私なんてまだ楽な方なんだ。 「――苗木君、ごちそうさまでした」 気を聞かせて雑巾を持ってきた彼に、私は微笑みを向ける。 「あれ、もういいの?」 「ちょっと、食欲が無くて…後のこと、お願いしていいですか?」 苗木君が頷くのを確認して、私は席を立った。 「大丈夫か、朝日奈…気分がすぐれないのなら、」 「…だい、じょぶ…ごめん、私もう行く…」 フラフラのまま、朝日奈さんが立ち上がる。 けれども腰が抜けたようで、そのまま地面に倒れてしまいそうになる。 私は横から、彼女の腕の下に体を入れて、それを支えた。 「あ…舞園、ちゃ…」 「…大神さん、朝日奈さんは私が送って行きます。具合悪そうだし」 「む、済まぬな…」 セレスさんはこちらを見ていない。 もう十分楽しんだし、好きにしろ、ということだろう。 みんなから庇うように、私は自分の体を朝日奈さんとの間に割って入れる。 今の彼女は、見せものにするべきじゃない。 表情は蕩け、足は震え、分厚いはずのホットパンツがぐっしょりと濡れている。 私だって似たようなもので、顔は火照るし、やっぱり足に力は入らない。 下着だって、もはや意味を成さないほど、ぐちゃぐちゃになっている。 それでも、彼女に比べれば、私なんてまだマシだから。 「…歩けますか、朝日奈さん。とりあえず、私の部屋まで行きましょう。その方が近いし」 彼女にだけ聞こえるように、私は囁いた。 ハッとしたように、彼女は顔を上げて、私を見て。 そして、また瞳に涙を湛える。 「ゴメン…ゴメンね…」 「もう、謝らないでって言ったじゃないですか。ホラ、早く行かないとみんなに気付かれます」 朝日奈さんのホットパンツは、後ろから見ても分かるくらい、濡れて色が変わってしまっていた。 理解している。 私を巻きこんだのは彼女で、そういう意味では彼女も加害者だ、と。 けれどそれ以前に、間違いなく朝日奈さんも被害者だ。 真の加害者に、有無を言わさず従わされただけ。 彼女を恨んだりは、しない。 そして、まもなく私も、そんな加害者の仲間入りを果たそうとしている。 「…あら」 少し遅れて食堂に来た霧切さんと、ばったり蜂合わせる。 「…おはようございます」 「…ええ、おはよう」 霧切さんは、訝しんだように私たち二人を見た。 「あ、あの…朝日奈さん、具合悪くなっちゃって」 「…」 求められる前に説明してしまう。 これじゃ、怪しいだけだ。 でも、彼女の観察眼の前には、これを隠し通すことはできないだろう。 言葉こそなかなか交わせないけれど、彼女の洞察力は十分に理解しているつもりだ。 それに、優しさも。 「…深くは追求しないけれど。辛くなったら私にも言いなさい。出来る限りで、力になるから」 なんとも素っ気なさげにそう言って、彼女はつかつかと食堂の中へ入って行ってしまった。 たぶん、彼女はなんとなくわかっているんだろう。 私と朝日奈さんがどういう状況で、何をされているのか。 その上で、自分から首を突っ込んだりはしない。 それは見捨てるという意味ではなく、選択肢を与えてくれるのだ。 手を差し伸べれば、応えてくれるだけ。 無愛想に見えて、優しいから。 最初に出会った時は誤解してしまったけれど、彼女は本当にいい人で、 だから、こんな感情を持ってしまっている自分を、私は心底嫌悪していた。 「あ、おはよう霧切さん」 朝日奈さんを、早く楽にさせてあげなければいけないのに。 私は足を止めて、食堂を見ていた。 「…苗木君、頬にいちごのジャム」 「え?あっ…」 「まったく、朝からそそっかしいんだから」 彼女がそう言って腰かけたのは、苗木君の正面の席。 さっきまで、私が座っていた椅子。 本当なら、私がいて、今も苗木君と笑い合い、言葉を交わしていたはずの場所に、霧切さんがいる。 奪われた。 そうじゃない、と、自分に言い聞かせる。 苗木君は、誰とでも仲良くなれる人だから。 霧切さんも、悪意や故意で、あそこに座ったわけじゃない。 なのに私は、心の底から湧きあがる黒い感情を抑えられなかった。 苗木君は、私が最初に知り合って、私が最初に仲良くなって、私が―― 「んっ……」 と、横で震える朝日奈さんの体に、我に帰る。 そうだ、汚い嫉妬に塗れている場合じゃない。 まずは彼女を落ち着かせないと。 苗木君がからかわれたのだろう、食卓でドッと笑いが起こる。 その中心に、恥ずかしそうにうつむきながらも楽しそうな苗木君と、穏やかにほほ笑んでいる霧切さんがいる。 後ろ髪を引かれる思いで、私は食堂を出た。 こういう黒い感情を抑える方法を、私は心得ている。 それは、我慢しないことだった。 しっかりと黒い感情に向き合い、それを理解する。 理解していれば、無意識に漏れだすことはない。 自分の鬱屈とした部分を把握したうえで、それに蓋をするのだ。 それが、芸能界にいた頃の、私のやり方。 それが、理性を保っていた頃の、私のやり方。 『ん゛ぁあああっあああ!!!気持ちいい、気持ちいいですぅううっぅあああっっ――!!!』 いつかの自分の悲鳴を思い出して、背筋が震える。 理性を快楽で溶かされた時の、それは私の本音。 あんな声、自分でも初めて聞いた。 今の私は、スイッチ一つで自分の理性を崩壊させることができる。 快楽という名のそのスイッチを、握っているのは他でもないセレスさんだった。 怖い。 自分がどうなってしまうか分からない。 彼女は、次のターゲットとなる二人を、私に教えてくれた。 それを責めるのに、私にも手伝ってもらう、と。 理性がある内は、まだ拒んでいられる。 もし、理性を溶かされたら。 私は彼らに、何をしてしまうのだろうか。 ゾクリ、と、背筋に嫌な感覚が走り抜けて、私はまた我に返り、自分の部屋へと急ぐのだった。 ――そうして、舞園さやかは、最後まで気づかなかった。 その時彼女の背中を駆け抜けたものが、怖気ではなく、むしろ恍惚に近いものだということに。
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登録日: 2013/07/02 Tue 00 00 02 更新日:2022/01/08 Sat 09 56 11NEW! 所要時間:約 12 分で読めます ▽タグ一覧 グロ 仏教 妊娠 室内(寺院)→野外(船上) 尼寺 尼寺に潜む怪物 当て屋の椿 百合 腐ったババァ 長編 ――手を伸ばせば、ある―― ――そこにある―― ――昂る肉をつつむその柔肌が―― ――ここにある―― あっ――ん。 ――それは偶さかな事なのだと―― 紫苑さま……っ。 ――その身に降り落ちた―― ――幸運だったのだと―― ――ほら―― ……あっ、ん……。 ――今夜もまた―― んんっ。 ――鬼が泣いている―― あっ 紫苑さま…………。 『尼寺に潜む怪物』とは、江戸を舞台とした時代劇漫画であり、推理漫画(?)でもある当て屋の椿の長編エピソードである。 単行本2巻終わりあたりから3巻の半分以上に渡って掲載されている。 ◆あらすじ◆ 揺れる舟の上で春画を描いていたら、ダウンしてしまった鳳仙。 女医・竜胆のもとへ運ばれた鳳仙はそこで椿と遭遇する。 なんやかんやで酒を飲み始めた彼らに、竜胆が酒の肴にと奇妙な話をし始める。 一人の女がおる。 女は男に肌を触れさせたこともなく、 それどころか男の手を握った事も、 口をきいた事もない。 そんな女が妊娠していた。 話を聞いた椿と鳳仙は、その女がいる、 という尼寺「白泉寺」へと赴いた。 ――女だけの場所―― ――戒律の結界―― ――女だけの密園の中―― ――人の理を破りしは―― ――鬼か―― ――仏か―― どんな理屈が咲くのか、 楽しみだねェ……。 ◆主な登場人物◆ ◆椿 主人公。「何でも」探す当て屋を営むピッチぴちの、 美女もといアネゴ。エロ可愛い。 竜胆の話に興味を持った彼女は、白泉寺が駆込寺(妻が夫と離縁したい時に駆け込む寺)であることを利用して、鳳仙を利用して潜入した。 仏教について詳しく、厳しい戒律が多いことついても、尼寺についても知っている。 (といっても、椿は変人故に幅広い事柄を網羅している。) そんな閉ざされた環境の中での特別である「御仏の子」を宿した女のことは心配らしい。 これも白泉寺に赴いた理由の一つのようだ。 椿が白泉寺に入ってすぐに黄梅が殺されたことで捕らわれそうになるも、 紫苑によって院主しか知らない地下室に匿わる……という形で幽閉された。 二話目の無防備な寝顔は破壊力抜群。これがギャップというものか。 ◆鳳仙 もう一人の主人公。一流のフニャチン春画師。 頭に生乳プレスされるわ、美女にキスされるわ、可愛い女医とイチャイチャするわ、とにかく羨ましすぎる目にあっている。そこ代われ (話を聞いて気になったからなのか)椿と共に白泉寺へおもむくも、 門に着いた途端に椿に強烈なビンタをくらい、 もう嫌ァーーーーー。 助けてぇ~~~~~~~~。 と椿にフラれ(たフリに巻き込まれ)、椿が寺に入るために利用された。 (まあ、どっちにせよ男である鳳仙が尼寺に入ることはできなかったのだが。) 仕方ないからその後は竜胆の所で彼女とイチャイチャしたり、胡蝶のオメデタを聞いたり、胡蝶の腹の子の名付け親になったりした。 ◆竜胆 椿の友人の女医。この作品の例に漏れず巨乳で尻の形まる分かりの着物を着ている。可愛い 面倒見が良く明るい美女。やわい上方訛で鳳仙曰く「鈴の音のような声が耳に心地良い」。ただしキレると豹変する。 ちなみに、口蓋垂のことは「のどちんぽ」と言う人。 笹百合のことは白泉寺に彼女の診察のために呼びつけられたことで知った。 笹百合のことが心配になった竜胆は、わざと椿に話をして彼女が白泉寺に乗り込むよう仕組んだ。 曰く「災いには災いぶつけな!!」どかーんて 処女である。 ◆日輪 竜胆の助手の大男。彼女のボディーガードも務める。無口。 竜胆に近づく男はもれなく彼から威圧を受けることになる。 ちなみに、竜胆とは姉弟である。 ◆胡蝶(こちょう) 岡場所(今で言うデリヘル)で働く美(少?)女。 物語冒頭で鳳仙の春画のモデルになっていた。そして、鳳仙に生乳プレスをくらわせた。 鳳仙の春画のモデルになったことで評判が上がったらしく、それがきっかけで身請けされることになった。 ちなみに、妊娠3ヵ月。腹の子の父親は身請けをしてくれた男である。 白泉寺(と僧寺)の人々 白泉寺は女しかいない尼寺ということで、悪い変態から守るために僧寺に付属している。 白泉寺内に男は出入りできず、白泉寺側が僧寺と面会する際は尼寺側から人をよこしている。 また、門の守りは鉄壁で、白泉寺と僧寺を繋ぐ廊下には轟音をたてて開く扉があるため、人知れず白泉寺に入ることは不可能。 そういった事情のためか、白泉寺の内情は外部から知ることはできず、僧寺側も白泉寺で何が起こっているか把握しきれていない様子。 山の頂にある関係で年中冷えており、白泉寺だけ雪が積もりやすい不思議な現象が起きている。 ちなみに、白泉寺内の至るところに般若の面が飾られている。 般若は女の苦しみを表す異相の女面という意味合いの他に、仏教では道理を見抜く知慧の意があるそうな。 ◆笹百合(ささゆり) 「御仏の子」を宿した女。白泉寺に潜入した椿の世話役になる。 幼い頃に捨てられていたのを白泉寺に拾われて以降、尼寺から出たことがない。 そのため、外の世界を知らないし、男に触れる機会も無い筈なのだが……、 性格は人懐っこく、明るい子。はふっ。 椿曰く「嘘がつける女ではなさそうだ」 年齢不詳だが、外見からして十代後半~二十代初めくらいか。 次期白泉寺院主とされる紫苑と百合ん百合んの関係。夜な夜な行為に耽っている。 (昔の仏教で同性同士で行為に及ぶことは結構あったそうな。落ち着かせるためだとかなんとか) 笹百合ちゃんたら木製ディ〇ドなんて持ち込んじゃって……。 尼僧の身で妊娠してしまったことで、紫苑以外の周囲からは恐れや嫉妬、嫌悪の目を向けられている。 椿も腹の子が災いを呼ぶとし、笹百合を心配している。 ◆紫苑(しおん) 白泉寺次期院主と目される女。黒髪長髪ストレートの巨乳美女。笹百合と恐らく同年代。 笹百合とは百合(ry その時に攻めるのは紫苑の方。 ちなみに、第一話では素っ裸で行為に及んでいたが、以降は着衣したままで及んでいる。 泰平の世にも関わらず、生まれてすぐに高貴な武家から出家させられた身であり、そのためか現院主である黄梅より権力は上。 笹百合が可愛いのに対し、こっちはエロい。 ◆黄梅(おうばい) 白泉寺現院主の老女。しわくちゃくちゃ。 腹に一物抱えてそうな人。 ……と思ったら初登場話でいきなり殺されちゃいました。 死体はまるで虫をちぎったかのようにバラバラになっていた。 ◆華鬘(けまん) 僧寺の主の老人。面倒くさがり。 黄梅は嫌い。 ◆縷紅(るこう) よく騒ぐ僧侶。 僧寺内では華鬘に次ぐ地位にあるっぽい。 華鬘の後釜を狙っており、連翹と対立している。 笹百合の妊娠を警戒している。 ◆連翹(れんぎょう) 豪快なオッサン。 縷紅と同じく、僧寺内では華鬘に次ぐ地位にあるっぽい。 白泉寺の次期院主に笹百合を推しており、縷紅とは対立している。 ※以降は物語の核心事項を含みます※ ◆あらすじ(part2)◆ 「御仏の子」を宿した笹百合を支持する連翹のことと、 次期院主候補となりつつある笹百合のことも気に食わない縷紅は、 部下を使って笹百合の子を堕ろそうと企む。 そして、竜胆の診療所から出てきた胡蝶の持っていた薬を、 堕胎薬と勘違いしたその部下は、争いの末に胡蝶を殺してしまう。 ――「ねえ、先生」―― ――「早くこの子の名前」―― ――「呼んでやらないと、まっかでまっかで」―― ――「はぐれちまうよ」―― 胡蝶が身請けされるという朗報を聞き、 更に彼女の子の名付け親となっていた鳳仙。 彼女の突然の死に悲痛な面持ちを浮かべる。 現場に落ちていた数珠が白泉寺の付属する僧寺のものと知った鳳仙達は、 その僧寺へと赴く。 一方、幽閉されていた椿は白泉寺の寺史と紫苑のことを調べていた。 そうして、全てを悟った椿は、鍵をこじ開け地下室から脱け出した。 生まれてまもなくこの尼寺へ来た。 武家の娘、紫苑。 この泰平の世に武家から赤子を、 出家されたりするだろうか? 美しい姫君。 用途はあっても害はない。 そして院主しか知らぬという。 地下室(ここ)だ。 ちっ あの糞婆ァ。 せっせとここで、 何を育ててやがった。 場面は変わり紫苑の方へ。 尼寺院主として僧寺に渡った彼女は華鬘と対面していた。 しかし、華鬘は紫苑を見た途端苦しみだし、 そう……そうか。 そうか。そうであったか。 紫苑の頭に手を置いた後に倒れてしまう。 対面が終わり、顔色がすぐれない紫苑。 それを狙ってか、尼寺へ戻る途中に縷紅が襲いかかる。 だが、彼が紫苑の足を開いて見たら、 うあ、あ? おっ、お前、お前は――――? ……どう なされた? お相手つかまつろう。 縷紅殿。 「それ」を見られた「紫苑」は自身の髪を縷紅の首に巻きつかせ、 その結果……、 あまりの力で彼の首が飛んだ。 縷紅を殺し、尼寺に逃げた「紫苑」の前に椿が立ちはだかる。 まるで「紫苑」の事を何でも知っているような言い方をする椿に「紫苑」は ―― ――はがれてゆく―― ――吾にはりつく―― ――昏くドロリとした淀みが―― ――はがされてゆく―― ――淀みに隠れていたのは―― 吾の名は 鬼の醜草。 ◆醜草(しこぐさ) 紫苑に成り代わっていた人物であり、笹百合の腹の子の父親。黄梅を殺したのも彼。 紫苑の四つ子の兄であり、顔は紫苑とそっくり。 尚、他の兄弟は産まれてすぐに死んだ。 江戸時代では多児産は畜生腹と蔑まれ、忌み嫌って間引く悪習があった。 彼が産まれて初めて見た光景は、四つ子に驚愕し恐怖する母親含む親族達の姿だった。 そんな中で唯一産声を上げてしまった醜草は発狂した母親に焼けた灰をぶちまけられ、一命はとりとめたものの全身が焼け爛れてしまった。 その後、紫苑は武家から出家した名も無き赤子として、醜草は人に非ずものとして山寺に捨てられた。 この山寺は白泉寺擁する僧寺である。 拾われた二人は華鬘に名前を付けられ、醜草は黄梅に地下室で「飼われ」始め、乳も出ない乾いた乳房を与えられる。 時が経つにつれ火傷跡は消えていき、そしてその体が男となった時、「ままごと」を止めて発情した黄梅に襲われ始めた。 毎晩のように黄梅に強要され続け、全てに疲れていた醜草だったが、ある夜に黄梅の隙をついて地下室から外へ出る。 そして、黄梅に言われた般若の面に仕掛けられたのぞき穴から、紫苑と笹百合の行為を見てその美しさに感動。 それを紫苑に見つかり逃げようとするも、尼寺に男がいる訳もないと思っていた彼女に「人に非ず者」「鬼の仔」と蔑まれ逆上。 彼女を襲う中、「女に捨てられ」、「女に飼われ」、今また「女に蔑まれる」彼は「女を喰らう鬼」となることを決心。 その後、彼が彼女と同じ顔を見せ兄であることを明かしたことで彼女は発狂。 山中を走り回り、最期は崖から飛び降りて死亡する。 紫苑が死んだことで、醜草の成り代わりが始まった。 それに伴い、彼女と笹百合の関係を引き継ぎ、笹百合は彼の子を妊娠した。 「女を喰らう鬼」となることを決心した醜草だったが、笹百合に対しては何度も関わる内に次第に心に惹かれていったようだ。 黄梅を殺したのも笹百合を守るためだったようで、黄梅は笹百合の妊娠を良くは思っておらず、憎んですらいた様子だったことが、後に華鬘から語られた。 火傷跡は消えてはいるが、体温が上がりすぎると体が蒸発するという、某包帯まみれの人みたいな体質になってしまっている(あっちは発火だが)。 また、その代償なのか凄まじい力を持つ。 「鬼の醜草」という名は紫苑の花の別名で、紫苑は台風に倒されてもいち早く戻る強い花である。 「醜」という字には「強い」や「頑丈」という意味もあり、 華鬘は「今にも死にそうな赤子に強く生きよ」ということで、彼にこの名を与えた。 ※以下、最後のネタバレ※ ◆あらすじ(part3)◆ 対峙する椿と醜草の前に、陣痛で倒れ悲鳴を上げる笹百合。 その悲鳴が自身が産まれた直後に聞いた母親の「拒絶の叫び」に聞こえてしまった醜草の中で、 その時の「地獄」が蘇り暴れ始めてしまう。 その際、消えていた全身の火傷跡も蘇る。 かつて自身が受けた地獄を作り出そうとするかの如く暴れる醜草。 怪力で寺の屋根を支える梁を壊し、雪崩を起こして白泉寺を崩壊させる。 しかし、 ――地獄に君臨して―― ――お前は何を求める―― ――醜草?―― そして微笑む笹百合の顔が蘇る―― ――吾が、求めたのは―― 同じ頃、縷紅が殺されたことにより、 僧寺の者達が白泉寺の門を封鎖し、椿は笹百合を連れ出せなくなる。 そんな中、遂に鳳仙達が登場。 中の人達を助けるべく、念仏を唱える僧侶達の合間を縫って、 尼寺の門に張り付けられた板を剥がそうとする鳳仙。 だが、尼寺の門を押し開けることは戒律を破るとして、 僧兵の槍が彼の手を貫くしかし、それで退く鳳仙ではなく、 何が戒律だ。 俺は幕府ご禁制の春画師だぞ。 なめんなよっ!! あっちなんか堕胎医だぞ!! ちゃうわ!! 穴の空いた手で板を剥がし続ける。 念仏を唱え続けるだけの僧侶に対しても、 手を合わせてるヒマがあるなら、 その手で誰かの手を掴んで来たらどうだ。 と訴え、彼らを動揺させる。 それでも邪魔する彼らであったが、 竜胆の命令を受けた日輪によって、ことごとくぶっ飛ばされたのであった。 そして、遂に白泉寺の門を開けた鳳仙。 椿も笹百合も、崩壊で怪我を負った人達も解放された所に、 縷紅の部下であり、胡蝶を殺した男が現れる。 全てを笹百合のせいにして彼女を刺し殺そうとするも、 飛び込んで来た醜草に阻まれ、彼によって、地面に叩き伏せられた。 刺された醜草はそのまま笹百合に抱き付き、 ――吾は、人として在りたい―― しかし、醜草の体は尼寺が崩壊したことにより、 火傷跡を抑えていた冷気が散ってしまい、蒸発寸前になっていた。 花びらが舞う。 花見だ笹百合。 雪が花びらに見えたのか、最期に醜草は笹百合に花見を告げ、 それを聞いた彼女は彼に花見をしたいと告げた時のことを思い出す。 ――紫苑様は……花がお嫌いで―― ――私の話など聞いてはいなくて……―― ――あの時―― ――うれしそうに笑って―― ――話を聞いてくれていたのは―― ――貴方だった―― しこぐさ。 笹百合の言葉の後、限界を迎えた彼の体は蒸発した。 ――それは誰も見た事がない―― ――壮絶な末路だったが―― ――誰も恐れず―― ――誰も動かず―― ――誰も叫ばず―― ――笹百合の咽び泣く声と―― ――悼む経だけが山に響いた―― ――醜草が人で在ったからだ―― 後日、笹百合は少し小さめの赤子を出んだ。 そして、連翹が笹百合の父親だったことが明かされた。 修行のために尼寺に笹百合を捨てた張本人である。 でも、本人は近くで見守っていたらしい。 ダメ親父。 華鬘によると白泉寺に雪が積もるようになったのは、醜草が来てかららしい。 まるで灼けた醜草の傷を癒すかのように 。 ……椿。 お前は笑うかもしれないけど、 俺は――御仏は居ると思う。 そりゃあ、 居るに越した事はないさ。 追記・修正よろしくお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] うーん、冒頭のあのシーンも追加した方がいいかなぁ。 -- 名無しさん (2013-07-02 11 20 33) 追加してみた。 -- 名無しさん (2013-07-02 13 10 11) 醜草はけっこういいキャラであった -- 名無しさん (2014-04-08 00 39 14) 胡蝶さん・・・・・・ -- 名無しさん (2014-04-08 00 51 00) 紫苑は笹百合の事を愛していたのか?性欲のはけ口だったのか可愛がるの延長だったのか -- 名無しさん (2014-04-08 00 52 27) ↑環境が特殊過ぎてなんとも言えないけど両方だったんじゃない? -- 名無しさん (2014-04-08 15 26 40) 胡蝶が殺されたのは鳳仙が大声で「堕胎…」と言ったから。 -- 名無しさん (2014-04-08 23 14 59) 醜草さんは -- 名無しさん (2014-04-28 03 39 58) ミスった。醜草さんはエロゲ主人公ならもっと活躍出来たと思う(小波感) -- 名無しさん (2014-04-28 03 41 21) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/105kokushi/pages/65.html
更新日時 2013-03-27 Q 「105回の削除問題をチェックしてみた 105D52の虐待の問題は、厚労省原本はcdが正解。 c(硝子体出血)、d(硬膜下血腫) I社の解説ではadになっている。 105D52 2歳の女児。意識障害。父親による強い揺さぶり。 可能性の高いものを2つ選べ。 a脳出血 b頸髄損傷 c硝子体出血 d硬膜下出血 e顔面神経麻痺 正解:cd 被虐待児症候群 battered child syndrome 2歳以下では頭部に打撲痕がなくても揺するだけで硬膜下出血が起き(shaken baby syndrome)やすい。 頻度が高いものは,硬膜下出血などの頭蓋内損傷,鼻口閉塞による窒息,栄養障害による肺炎, 衰弱,絞頸,胸腹腔臓器損傷などがある. これらの疾患を診察した場合は,まず,本症を疑うべきである. さらに網膜前出血(硝子体出血)も起こりやすい。 (高血圧性脳出血などで認められるのは網膜出血)。 厚労省がリベンジしてくるだろうと予想していたら、106回の国試問題を見たら、 同じ問題で、硬膜下血腫を選ばせる問題が載っていた。 105G40の厚労省解答は、厚労省発表時は、正解なしとしてあるが 原本ではe(血液化学検査の再検査)となっていた。 105G40 74歳の男性。2時間前から持続している胸痛を主訴に救急外来を 受診した。糖尿病で通院中。脈拍124/分,整。血圧114/72mmHg。心音 と呼吸音とに異常を認めない。来院時の緊急検査で赤血球440万,Hb 14.0g/dl,Ht 46%,白血球8,200,CK 86IU/l(基準30~140),心 筋トロポニンT 0.2ng/ml(基準0.1以下),CRP 0.1mg/dl。来院時の 心電図(別冊No.6)を別に示す。 この患者に対する治療方針の決定にあたって必要がないのはどれか。 a 心エコー検査 b 胸部エックス線撮影 c 心電図モニタリング d 12誘導心電図の再検査 e 血液生化学検査の再検査 心筋トロポニンTなどの血液所見は、直ちに再検査してもデータ上の変化が乏しいので 一定時間あけてからの再検査ということみたい。 105G40って例の愚問か 解説に「愚問である、出題者の意図すら分からない」とか書いてあってワロタ 105G40は面白い、いい問題だと思ったけどな。 血液検査は、ただちに再検査してもデータの変化はでにくい思って、 eだと直感した。 考え出すと、どれを選ぶのかわからなくなってしまうかも。 心電図などは、次の瞬間に変化することはあるからECG再検査や継続モニターは 必要と思った。 出題者の意図はそんなとこにあると分かったけどな いや治療方針を決める上で再検査必要だろ 今すぐやるなんてどこにも書いてない 今すぐやる を書きそびれたために、意図が伝わりにくくなって 削除問題となってしまったのだろう。 出題者的には会心の出来だったかもしれないのに、解説でボロクソに言われ全国の医学生の晒し者になるとか 今までの問題は、次に何を行うかを問う問題が多かったが、 105G40は逆に すぐ続けては、何を行わないかを問う斬新な問題だったと思う。 「今すぐには、何を行わないか」と明示しなかったために愚問と言われる羽目になったが。 リベンジをはかってくるだろうから、 106回は心筋梗塞の時間経過でCPKや心筋トロポニンTなどの動きが どうなるのかを問うような問題が出る気がする。良く検討しておくべし。 105d27のITPとTTPどうやって鑑別するの? 貧血が出血によるものか溶血によるものかはこの検査データじゃ解らないよね? TTP 中枢神経症状が特徴 終わり 問題見てないから知らんが、破砕赤血球・発熱・腎機能障害とかなかった? 精神神経症状なしの問題も見たことあるな。いつのかは忘れたが TTPとHUSが区別できない なら分かるけどね TTPはHUSに似てるんだわ。それに教科書読むだけだと、どっちも血小板やられるし一緒やん というのも無理ないんだが、TTPはでっかいvWFが血小板めっちゃ集めるので 血栓できまくる→精神や腎がやられる。 一方、ITPはAIHAと合併するEVANSもあるので溶血が起こることがある。 しかしこの場合月経血が多いとあるので、それからくる貧血だろうと思われる。 これで落ちるとは思わんがもったいないのでチェックしときー キーワード問題 ①幼児期+高熱発疹+カタル症状(+)+潜伏期10日 ②高齢男性+膵管狭窄像+高γ-G血症+IgG4 ③ホームレス+慢性咳そう ④乳児期発症+RAA↑+血圧正常+発育異常 ⑤ゴルフして酒飲んで寝て翌朝四肢脱力の男 ⑥振戦+アルコールで軽減 ⑦Auspits+Kobner ⑧乳幼児+間欠的てい泣+血便 ⑨RDS先行新生児慢性肺障害 ⑩ニヤニヤブツブツ若い男 対応するregion、endregionプラグインが不足しています。対になるようプラグインを配置してください。 解説 ①幼児期+高熱発疹+カタル症状(+)+潜伏期10日 ⇒麻疹 ②高齢男性+膵管狭窄像+高γ-G血症+IgG4 ⇒自己免疫性膵炎 ③ホームレス+慢性咳そう ⇒結核 ④乳児期発症+RAA↑+血圧正常+発育異常 ⇒バーター(バーターは成長障害を伴うのが重要。ギッテルマンは成長障害なしなんだ) ⑤ゴルフして酒飲んで寝て翌朝四肢脱力の男 ⇒周期性四肢麻痺 ⑥振戦+アルコールで軽減 ⇒本態性振戦 ⑦Auspits+Kobner ⇒かんせん ⑧乳幼児+間欠的てい泣+血便 ⇒腸重責 ⑨RDS先行新生児慢性肺障害 ⇒気管支肺異形成症 ⑩ニヤニヤブツブツ若い男 ⇒統合失調症 キーワード問題 ①小児+血便+破砕赤血球 ②新生児+左軸変異+チアノーゼ(+) ③乾性咳そう+8月 ④発熱+出血傾向+貧血 ⑤伝音性難聴+頚部リンパ節腫脹+外転神経麻痺+顔面圧痛・腫脹無し ⑥幼児+突然の咳そう+Xp右肺野透過性亢進 ⑦高齢者+HT・DMの既往+突然の下血+腹部平坦・軟 ⑧若年男性+東南アジア+血球減少 ⑨閉経女性+不正性器出血 ⑩女 対応するregion、endregionプラグインが不足しています。対になるようプラグインを配置してください。 解説 ①小児+血便+破砕赤血球 ⇒HUS ②新生児+左軸変異+チアノーゼ(+) ⇒三尖弁閉鎖 ③乾性咳そう+8月 ⇒過敏性肺臓炎 ④発熱+出血傾向+貧血 ⇒白血病 ⑤伝音性難聴+頚部リンパ節腫 脹+外転神経麻痺+顔面圧痛・腫脹無し ⇒上咽頭癌 ⑥幼児+突然の咳そう+Xp右肺野透過性亢進 ⇒気管支異物 ⑦高齢者+HT・DMの既往+突然の下血+腹部平坦・軟 ⇒虚血性腸炎 ⑧若年男性+東南アジア+血球減少 ⇒不適切問題 ⑨閉経女性+不正性器出血 ⇒子宮体癌 ⑩女⇒妊娠 キーワード問題 ①一歳児+突然の高熱+軟口蓋水疱→潰瘍 ②女性+胆石症+心か部~背部に強い持続痛+発熱・嘔吐・血圧低下・BUN↑plt↓ ③新生児期発症+胆汁性嘔吐+急速に容態悪化+出生時異常なし胎便排泄正常 ④高齢者+膝関節の激痛+関節液混濁・多核白血球↑+細菌(-) ⑤幼児期+正中線を超える表面不整な硬い腹部腫瘤+眼球突出 ⑥慢性咳嗽+胸やけ ⑦老人ホームで超かゆい 対応するregion、endregionプラグインが不足しています。対になるようプラグインを配置してください。 解説 ①一歳児+突然の高熱+軟口蓋水疱→潰瘍 ⇒ヘルパンギーナ 手足口病は発熱自体頻度が高くない。そもそも手足にもできるし 永山斑は潰瘍になるんか? ②女性+胆石症+心か部~背部に強い持続痛+発熱・嘔吐・血圧低下・BUN↑plt↓ ⇒急性膵炎 胆石症由来の急性膵炎があるよって言いたかっただけの問題。女性に多い ③新生児期発症+胆汁性嘔吐+急速に容態悪化+出生時異常なし胎便排泄正常 ⇒腸回転異常or腸軸捻症 ④高齢者+膝関節の激痛+関節液混濁・多核白血球↑+細菌(-) ⇒偽痛風 一見化膿性関節炎っポイ所見が特徴 ⑤幼児期+正中線を超える表面不整な硬い腹部腫瘤+眼球突出 ⇒神経芽腫 ⑥慢性咳嗽+胸やけ ⇒GERD(gastroesophageal reflux disease)胃食道逆流症? ⑦老人ホームで超かゆい ⇒疥癬 国試的には「右上腹部痛⇒胆嚢・胆管の炎症」「心か部~背部痛⇒膵炎」だと考えて作ったわ。もちろん部位だけで除外できないよね 慢性咳そうは粘膜やら神経刺激的なものじゃないかな? 間質性肺炎は重症度は高いけど頻度は高くない。慢性咳そうで頻度が高いのは後鼻漏・咳喘息・アトピー咳そう・ガード(byできれじ) それに間質性肺炎を扱う問題ならもっと症状や検査が入る 逆流性食道炎の有無にかかわりなく胸やけなどの逆流症状を訴える場合 GERD(gastroesophageal reflux disease) 逆流性食道炎を認めないが逆流症状を訴える場合:症候性GERD(symptomatic GERD:S-GERD)とよぶ. アレルギー性紫斑病で血管壁脆弱性のためRumpel-leede(+)と書いてあるのに、出血時間延びないのはなぜ? 出血時間は①血小板の数②機能③血管壁異常で起こると書いてあるのですが 乱暴に言うと血管壁異常は出血時間に付随する一要素に過ぎないから アレルギー性紫斑病は血管壁がターゲットにされて脆弱になるために紫斑が出来る。 対してITPやTTPはあらゆる所で血小板がターゲットにされて破砕されたために、 血小板数が減って血管内皮が損傷しても血小板を動員できず脆弱になるために紫斑ができる。 病態が全然違う キーワード問題 ①認知症+幻視+パーキンソニズム ②学童期+反復性嘔吐+ケトーシス+痙攣(-)+ストレス ③頭蓋内占拠病変+ringenhancement+MRI拡散強調high ④乳児期+突然の陰嚢部~下腹部の痛み+陰嚢圧痛腫大+精巣挙上で痛み増強 ⑤高齢女性+大腿内側部痛+悪心嘔吐腹痛腹部膨満 ⑥消化管ポリポーシス+口唇手掌色素沈着+しばし腸閉塞合併 ⑦学童期+心内膜炎+大関節の移動性一過性関節炎+輪状紅斑+ASO↑ ⑧内耳性難聴+血尿+眼症状 ⑨老年期+多発性緊満性水疱+粘膜疹(-) 対応するregion、endregionプラグインが不足しています。対になるようプラグインを配置してください。 解説 ①認知症+幻視+パーキンソニズム ⇒DLBD ②学童期+反復性嘔吐+ケトーシス+痙攣(-)+ストレス ⇒アセトン血性嘔吐症(周期性嘔吐症) ケトン性低血糖症との鑑別がよく問われる ③頭蓋内占拠病変+ringenhancement+MRI拡散強調high ⇒脳膿瘍 105回で脳膿瘍拡散強調画像が出た。国試的に拡散強調を使うのは脳膿瘍と急性期脳梗塞くらい。 脳腫瘍への応用が見当たらないので、ざっくばらんに問題を作っちゃいました ④乳児期+突然の陰嚢部~下腹部の痛み+陰嚢圧痛腫大+精巣挙上で痛み増強 ⇒精索捻転症 プレーン徴候陽性が実に国試的 ⑤高齢女性+大腿内側部痛+悪心嘔吐腹痛腹部膨満 ⇒閉鎖孔ヘルニア ハウシップロンベルク+イレウス症状 ⑥消化管ポリポーシス+口唇手掌色素沈着+しばし腸閉塞合併 ⇒ポイツジェガース ⑦学童期+心内膜炎+大関節の移動性一過性関節炎+輪状紅斑+ASO↑ ⇒リウマチ熱 ⑧内耳性難聴+血尿+眼症状 ⇒アルポート ⑨老年期+多発性緊満性水疱+粘膜疹(-) ⇒類天疱瘡 キンマン性水疱ときたら類のほう一択!!高齢悪性腫瘍疑い!!パンパンの癖破れにくい プレーン徴候 急性陰嚢症における原疾患の鑑別に用いられる診断方法。 陰嚢部の疼痛を訴える患者の精巣を挙上した時,疼痛が軽減しなければ精索捻転症を考え, 疼痛が軽減すれば精巣上体炎を考える。 本検査は簡単に施行できるという長所があるが,確実に鑑別診断ができないことも少なくない。 さらに精索捻転症では緊急手術が必要となるので本症が強く疑われれば緊急手術を行う。 キーワード問題 ①右片麻痺+左Ⅵ・Ⅶ脳神経麻痺 ②小児+ミオクローヌス+PSD ③アトピー+発熱(易感染性)+慢性下痢+血小板減少 ④HLA-B54+湿性咳 ⑤30歳女性+発作性の脱力・しびれ→増悪で四肢麻痺+腹痛嘔吐便秘+赤ブドウ酒色尿 対応するregion、endregionプラグインが不足しています。対になるようプラグインを配置してください。 解説 ①右片麻痺+左Ⅵ・Ⅶ脳神経麻痺 ⇒Millard-Gubler症候群 ②小児+ミオクローヌス+PSD ⇒SSPE ③アトピー+発熱(易感染性)+慢性下痢+血小板減少 ⇒WAS ④HLA-B54+湿性咳 ⇒DPB ⑤30歳女性+発作性の脱力・しびれ→増悪で四肢麻痺+腹痛嘔吐便秘+赤ブドウ酒色尿 ⇒AIP Millard-Gubler症候群(ミヤール・ギュブレ症候群):橋腹側の障害で,病巣側の顔面神経と外転神経の麻痺に加えて反対側の片麻痺をきたしもの 亜急性硬化性全脳炎subacute sclerosing panencephalitis(SSPE) Wiskott-Aldrich syndrome(WAS):triasは下痢、出血傾向(Plt↓)、アトピー湿疹 びまん性汎細気管支炎diffuse panbronchiolitis(DPB) 急性間欠性ポルフィリン症Acute Intermittent Porphyria(AIP) キーワード問題 頻脈+収縮期拡張期高血圧+発汗+BS↑chol↑ 出典106スレ19 ??氏 対応するregion、endregionプラグインが不足しています。対になるようプラグインを配置してください。 解答 正解:褐色細胞腫 解説 頻脈・発汗・高血圧・振戦・やせなどバセドウ病と類似した症状を呈する。 相反する症状は DBP↑・chol↑・便秘 (バセドウはDBP↓・chol↓・下痢) 臨床でも記述多い便秘はポイントだな。バセドウは消化菅活動まで増えて下痢のイメージ バセドウや類似疾患はベータブロッカ単品OKで、褐色細胞腫はベータブロッカ単品いくとドカン。 褐色細胞腫は禁忌多いから検査ルート記憶大事。 正誤問題 ①体表面積が成人の1/2になるのは9歳 ②成人用マンシェットは9歳から使用 ③成人値に達するのはIgM1歳、IgG6歳、IgA10歳 ④1日必要水分量は乳児<幼児 ⑤側頚嚢胞は第3・4鰓溝由来 ⑥メープルシロップ尿症は尿Benedict反応陽性 ⑦新生児けいれんの原因にてんかんがある ⑧小児ウイルス性腸炎の初発症状は下痢である ⑨ネフローゼ症候群で血清蛋白分画α1・α2が増大 対応するregion、endregionプラグインが不足しています。対になるようプラグインを配置してください。 解説 ×①体表面積が成人の1/2になるのは9歳 ⇒六歳 ○②成人用マンシェットは9歳から使用 ○③成人値に達するのはIgM1歳、IgG6歳、IgA10歳 ○④1日必要水分量は乳児<幼児 ⇒乳児100幼児150ml/kg/day ×⑤側頚嚢ほうは第3・4さい溝由来 ⇒1・2由来 ×⑥メープルシロップ尿症は尿Benedict反応陽性 ⇒ガラクトース血症 ×⑦新生児けいれんの原因としては、頭蓋内出血,胎児・新生児仮死に続く低酸素虚血性脳症,中枢神経系の感染(髄膜炎,脳炎など)などがある。 ×⑧小児ウイルス性腸炎の初発症状は下痢である ⇒ロタを想定した問題だが、乳児嘔吐下痢症ともいう。下痢が有名だけど嘔吐→下痢が実は特徴的。 ×⑨ネフローゼ症候群で血清蛋白分画α1・α2が増大 ⇒α2・βが増大 新生児痙攣の原因疾患 低酸素性虚血性脳症,頭蓋内出血,中枢神経発生異常(水頭症,滑脳症など),脳腫瘍,低血糖症, 低Ca血症,低Mg血症,ピリドキシン依存症,高アンモニア血症, 核黄疸,中枢神経感染症,家族性良性新生児痙攣 血清蛋白分画 無アルブミン血症 Alb↓ ネフローゼ症候群 Alb↓,γ↓,α2↑,β↑(血清蛋白全体では低下) α1-アンチトリプシン欠損症 α1↓ 無トランスフェリン血症 β↓ 無(低)免疫グロブリン血症 γ↓ 肝硬変 (Alb,α1,α2)↓,γ↑,β-γ bridging M蛋白(多発性骨髄腫,マクログロブリン血症など) α2-γに急峻なピーク 正誤問題 ①十二指腸潰瘍は下痢をきたす ②K+は浸透圧を構成する要素となる ③血中Pは慢性アルコール中毒で低下する ④肺癌は女性化乳房をきたす ⑤新生児低血糖は頻呼吸をきたす ⑥アデノイド肥大は嗅覚低下をきたす ⑦成人男性排尿回数七回/日は正常である ⑧胸膜摩擦音をきたすものに胸膜中皮腫がある ⑨心嚢液貯留は右心不全徴候である ⑩食道癌は密封小線源治療適応がある 対応するregion、endregionプラグインが不足しています。対になるようプラグインを配置してください。 ×①十二指腸潰瘍は下痢をきたす ×②K+は浸透圧を構成する要素となる ⇒NaとClは要素だそうな。イミフ ○③血中Pは慢性アルコール中毒で低下する ⇒栄養障害・肝障害でVitD↓ ○④肺癌は女性化乳房をきたす ⇒エストロゲン産生による。小細胞癌・大細胞癌に多い ○⑤新生児低血糖は頻呼吸をきたす ⇒頻脈は×だが、徐脈・多呼吸を認めることはあるとのこと ×⑥アデノイド肥大は嗅覚低下をきたす ○⑦成人男性排尿回数七回/日は正常である ⇒3~8回/日が正常 ○⑧胸膜摩擦音をきたすものに胸膜中皮腫がある ⇒まれだがきたす ○⑨心嚢液貯留は右心不全徴候である ○⑩食道癌は密封小線源治療適応がある ⇒食道用アプリケーターを用いたくう内照射が行われる 正誤問題 ①グルカゴンで消化管運動抑制 ②ICGは肝臓にて抱合される ③重症筋無力症患者にマクロライド系は慎重投与 ④VitB1欠乏にて膝外腱反射↓ ⑤IL6でCRP↑ ⑥膀胱容積800ml ⑦脾臓は一次リンパ組織 ⑧細胞内最多陰イオンはCl~ ⑨キノロン系は嫌気性菌無効 ⑩ケラチノサイトは接触アレルギーに関与する 対応するregion、endregionプラグインが不足しています。対になるようプラグインを配置してください。 ○①グルカゴンで消化管運動抑制 ×②ICGは肝臓にて抱合される ⇒BSPは抱合されて排出 ○③重症筋無力症患者にマクロライド系は慎重投与 ⇒抗菌薬ではアミノグリコシド・マクロライド・ポリミキシンBが禁忌or慎重 ○④VitB1欠乏にて膝外腱反射↓ ○⑤IL6でCRP↑ ×⑥膀胱容積800ml⇒300-500ml ×⑦脾臓は一次リンパ組織 。一次は胸腺と骨髄 ×⑧細胞内最多陰イオンはCl~ ⇒細胞外で最多。内はHPO4~ ○⑨キノロン系は嫌気性菌無効 ⇒アミノグリコシド・キノロン・モノバクタムは無効 ○⑩ケラチノサイトは接触アレルギーに関与 KSRとMTMの戦果 KSR 氷食べちゃうヤツ →鉄欠乏性貧血→ビタミンC PBCにウルソ パーキンソンにCOMT阻害薬 シゾときたらデイケアの法則 RSウイルス 進行性核上性麻痺 アスピリン喘息 ケルズス禿瘡 破傷風…………破傷風は毒素でさられるから、データで陰性はいい など多数 MTM FENa計算式 対応するregion、endregionプラグインが不足しています。対になるようプラグインを配置してください。 氷食見た瞬間貧血にシフトできたしありがたかったけどね。ビタミンCは近年にあったからそこは予想なくても合わせておけよw間違えたのかw メディクメディアの105回回数別の解説からかなり的中してたね 正直FENa計算式当てたのが一番すごくないか? 今となれば産婦松キも公衆高橋も眼科の知らない人も分かりやすかったと思う クエバン1人でシコシコするのが無理な俺には神だった 106回に関してはKSR派大勝利だったからなぁ 精神科の概括重症度、医学英語で出題か? 平成24年4月から、精神科関係では診療の都度下記の項目をチェックして概括重症度を評価とのこと。 いずれの項目も0、1,2,3,4で評価 (0=なし・正常、1=ごく軽度・不確実、2=軽度、3=中等度、4=重度) (1)Gait 歩行 (2)Bradykinesia 動作緩慢 (3)Sialorrhea 流涎 (4)Muscle rigidity 筋強剛 (5)Tremor 振戦 (6)Akathisia アカシジア (7)Dystonia ジストニア (8)Dyskinesia ジスキネジア (9)Overall severity 概括重症度 対応するregion、endregionプラグインが不足しています。対になるようプラグインを配置してください。 (1)歩行 小刻みな遅い歩き方、速度の低下、歩幅の減少、上肢の振れの減少、前屈姿勢や前方突進現象の程度を評価 (2)動作緩慢 動作ののろく乏しいこと。動作の開始または終了の遅延または困難。顔面の表情変化の乏しさ(仮面様顔貌)や単調で緩徐な話し方の程度も評価する。 (3)流涎 唾液分泌過多。 (4)筋強剛 上肢の屈伸に対する抵抗。歯車現象、ろう屈現象、鉛管様強剛や手首の曲がり具合の程度も評価する。 (5)振戦 口部、手指、四肢、躯幹に認められる反射的、規則的(4~8Hz)でリズミカルな運動。 (6)アカシジア 静坐不能に対する自覚:下肢のムズムズ感、ソワソワ感、常に動いていたい衝動とそれに関連した苦痛。運動亢進症状(足踏み、ウロウロ歩きなど) (7)ジストニア 筋緊張の異常な亢進によって引き起こされる症状。舌、頸部、四肢、躯幹などにみられる筋肉の捻転やつっぱり、持続的な異常ポジション。舌の突出捻転、斜頸、後頸、牙関緊急、眼球上転、ピサ症候群などを評価する。 (8)ジスキネジア 運動の異常に亢進した状態。顔面、口部、舌、顎、四肢、躯幹にみられる他覚的に無目的で不規則な不随意運動。舞踏病様運動、アテトーゼ様運動は含むが振戦は評価しない。 (9)概括重症度 錐体外路症状全体の重症度 ※ピサ症候群Pisa syndrome 抗精神病薬による慢性の体幹ジストニーの一種。体幹がやや後方に回転しながら一側方向に持続性に屈曲する現象で, 異常姿勢の特徴がピサの斜塔に似ていることから命名された。 高齢者に高力価の薬物を投与した場合に多いが,投与量や期間は一定しない。 薬物の中断により改善するが,抗パーキンソン薬の効果は不十分である。 プロブレムリストはどこでもやっていると思うが、載せておく http //kensankai.lolipop.jp/contents/integrated_problem_system/practical/3.html 対応するregion、endregionプラグインが不足しています。対になるようプラグインを配置してください。 解説 <基礎資料> <症例>M.O 65才 男 既往歴:前立腺肥大症手術 生来健康。三週前から起居時に腰全体がキヤキヤと痛む。いたみは増強、農作業を中止。 一週前から口渇が出現し夜も枕元にお茶を用意した。けだるく食欲も落ち、元来の便秘もひどくなった。 最近微熱(37度代)があり某院を受診し腎臓が悪いと言われて点滴を受けていた。 体温36.6度 血圧148~99 脈拍68整 皮膚乾燥 眼・口腔・頚正常 心臓正常雑音なし 左下肺crackle 腹部正常 腱反射瀰漫性に亢進 病的反射なし 脳神経正常 脊椎正常 U/A UP2+ S- OB+- SG1020 pH6.5 CBC Hb11.8 WBC 8800(b0.9 e0.3 n65.8 ly26.6 mo6.4) Plt 129 Che TP10.9(Alb 3.77 α1 0.21 α2 0.65 β 5.86 γ 0.4) ALP 153 GPT 11 LDH 552 CPK 19 Na141 K 3.9 Cl 93 Ca 15.8 IP 4.5 UA 10.3 BUN 25 CRN 1.8 Ser ESR101/104 ChestXP np EKG WNL この基礎資料で君がつくったリストはこうだ。 #a 腰痛症 #b 蛋白尿 #c 高カルシウム血症 #d 高窒素血症 同じ資料からつくる、ぼくのリストはこうだ。 #1 腰痛症 #2 高蛋白血症 #3 高カルシウム血症 #4 高窒素血症 途中省略 #2 高蛋白血症 君はこれをとりあげなかった。だが、これこそ中枢のプロブレムだ。TP10.9は65才でなくても異常に高い。 尿の比重は1025と多少は高比重だが、NaやHbをみても濃縮して高蛋白血症になっているわけではない。 セルロースアセテート膜の分画数値を見ると、つよい低γグロブリン血症で、βグロブリンが多いことがわかる。 そして血沈が異常に高い。泳動の図パターンを見れば、きっとM蛋白がβグロブリン領域に重なってあって、 見かけ上βグロブリン高値γグロブリン低値になっているに違いない。その泳動領域にあるM蛋白はIgAだ。 nephropathy due to plasma cell dyscrasia(形質細胞障害性腎症)は疑うところではない。 #1を来たし、いまや#3までも惹起した。多発性骨髄腫に決まっている。確定診断は骨髄穿刺検査。 #3 高カルシウム血症 高カルシウム正リンだ。#4があるから本来は低リンかもしれないことは念頭するとしても、高窒素血症の程度はさほどには強くない。 一義的な高カルシウム血症つまりは副甲状腺ホルモン過剰症を考えることはない。#2による骨の脱失だ。 口渇は高カルシウム血症がもたらした多尿による。さいわい多飲することによって脱水は尿比重1025程度で免れている。 #2という進行性悪性疾患によって、一週程前から急性にはじまり増悪しつつあると考えられ、 #4をいまや引き起こしはじめている高カルシウム血症はmedical emergencyだ。 認知症が300万人を越えた 対応するregion、endregionプラグインが不足しています。対になるようプラグインを配置してください。 解説 厚生労働省は24日、2012年の認知症高齢者が推計で305万人に上ると発表した。 65歳以上人口の約10%を占める。従来の予想を上回るペースの増加で、20年には400万人を超える見通しだ。 http //headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120824-00000058-jij-pol 専門医二次試験-1だが、106回の国試そのままだね 対応するregion、endregionプラグインが不足しています。対になるようプラグインを配置してください。 解説 診察など実技 20分 試験官は2人。自分から向かって右側にベッドが一つ、模擬患者さん一人。 ● ● (←試験官) ___ ● (←模擬患者さん) ○ (←自分) 「これまでどういった疾患を見てきましたか」「深昏睡の患者さんの診察をしてください、VitalはOKとして」 「Confusionだったらどうですか」「眼底見てみて」「複視の患者さんです。眼球運動と視野の診察」 「難聴の患者さんの診察、今のはどう記載する?(Weber偏倚なし、Rinne陽性)」 「副神経の診察」 「上肢のBarre徴候と協調運動」 「下肢の筋力評価」 「GMは診察しないの?どうやって診察するの」 「下肢の関節位置覚」 「アステレキシスどうやって診ますか。アステレキシスやってみて。肝性脳症以外ではどんな疾患で出現しますか」 「PDの歩き方を真似して」 「Steppage gait」「Wandering」「Spastic」「Vascular Parkinson」 「iNPH。…ふーん、それPDとどう違うの」 「PSP」 http //blog.m3.com/m/noa/show_entry?entry_id=68287 _session_id=0b72debb811258bafb79081c30986f14 専門医二次試験-2 口頭試問(20分) 対応するregion、endregionプラグインが不足しています。対になるようプラグインを配置してください。 解説 「感覚障害の検査をするときに注意することは」 「嚥下障害の患者さんで食事開始の時期を決定するうえでどんな診察をするか」 「意識清明になってから来院した意識消失発作で、 失神ORてんかんを救急外来の場で見分けるにはどこに注目しますか」 「眼瞼下垂と複視の患者さんを見たら何を考えますか」 「さて、提出していただいたサマリーいきましょうか。ALSがありますね。 ALSのインフォームドコンセントはどのようにおこないますか」 「…悪いことばっか言いますねぇ。実際そんなかんじですか」 「Fisherの治療方針とエビデンスは」 「肝性脳症がありますね、はばたき振戦はどのような疾患で出ますか」 すごくたくさん間違えて。眼瞼下垂って言われてるのにN.7とか言っちゃったし。 対光反射がない場合って言われてるのに動脈瘤とか言っちゃったし。もう、ばかばか!! 基本的には、先生方の眼は優しいんだけど、もうこっちの出来が悪いもんだから、 どんどん呆れられていくというか。もう…!! 落されても全然不思議じゃないってことはわかってます。 でも、落とさないでください・・・。えーんえーん http //blog.m3.com/m/noa/show_entry?_session_id=0b72debb811258bafb79081c30986f14 entry_id=68289 犬吠様咳嗽の読みは? 対応するregion、endregionプラグインが不足しています。対になるようプラグインを配置してください。 解説 今まで読みは知らなかったが、ぐぐったら 仮性クループ(急性喉頭気管炎)は、犬の遠吠えのような咳(犬吠様咳嗽:けんばいようがいそう)がして、 声がかすれる(嗄声:させい:声がしゃがれる)が、夜間などに と書いてある。 http //hobab.fc2web.com/sub6-RS_virus.htm 吠とは、犬がほえるという字 音訓音読みは、ハイ、バイ、訓読みは、ほえる。 http //dic.nicovideo.jp/a/%E5%90%A0 面白い熟語もある。 【蜀犬吠日】しょくけんはいじつ 見識の狭い人が賢人の言行を疑って非難することのたとえ。 また、見識の狭い者が無用の疑いを抱いて非難すること。 蜀の地方は、山国で雨や霧が多くて太陽を見ることが少ないので、 たまに太陽を見ると、犬が怪しんで吠えたてるということから。 http //www.geocities.jp/growth_dic/honbun/zoukan-4b4a.html 国試の点数計算に良い。飛躍エクセルファイル。 http //www1.axfc.net/uploader/so/2846031 pass 59451 対応するregion、endregionプラグインが不足しています。対になるようプラグインを配置してください。 解説 細かい解説や具体的な手順は、エクセルの中に書いてある。 飛躍エクセルのデータを入力または手直しする場所 データを入力したり、手直しする場所は以下の場所だけです。 他の場所には、一切手をつけないでください。 ここに入力すると、他の場所には自動転記して、計算などを行っています。 (1)自分のデータ 「自己解答入力」シートの「自己解答」欄のM2の位置のA1の問題のところから入力。 (2)テコムのデータ 「TECOM取込」シートのI4の位置のA1から入力。または説明書に従ってTECOM取込ボタンを押して自動取込 (3)マックのデータ 「MAC取込」シートのI4の位置のA1から入力。または説明書に従ってMAC取込ボタンを押して自動取込。 (4)メックのデータ 「MEC取込」シートのI4の位置のA1から入力。または説明書に従ってMEC取込ボタンを押して自動取込。 (5)厚労省のデータ 「厚労省取込」シートのK4の位置のA1から入力。または説明書に従って厚労省取込ボタンを押して自動取込。 今回は、マック、メック、テコムともデータは取り込んであります。 各予備校でデータが変更された場合は、上記で自動取込出来ます。 飛躍エクセルをバージョンアップしました。(平成25年3月26日) 採点除外問題と削除問題の場合分けに対応しました。 (「自己解答入力」シートのU列のその問題に対応する行にyy入力すると、その問題はなかったものとして計算する。) (yを入力すると正解の場合はその問題は有効かつ採点され、不正解の場合はその問題がなかったものとして計算される。) マクロ及びVBを計算式に使っておりますが、ウイルスは含まれておりません。 検証済みです。 飛躍107回マックメックテコム厚労省H250326Ver7.10.XLS http //www1.axfc.net/uploader/so/2846031 pass 59451
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血みどろ天使と金色夜叉 ◆tu4bghlMI ゴウン、ゴウン。 絶え間なく続く駆動音がやけに耳障りだった。 大きなカーブを曲がる度に、枕木を一つ乗り越える度に、ボクのイノチが少しずつ減っていくのが何となく分かった。 身体が重い。ボクに圧し掛かっている人のせいだ。 名前も知らない。顔もよく覚えていない。ううん、もう思い出せない。 風が痛い。 音が痛い。 空気が痛い。 光が痛い。 闇が痛い。 振動が痛い。 世界を構成する全ての要素がボクに牙を剥く。 犯される。塗り替えられる。ドロドロに溶かされて食べられる。 真っ黒なトンネルを少しだいだい色に染めているランプの光が、眼球に突き刺さる。 ぐらぐら、ぼんやり揺れる。 ゆらゆら、ほのかに照らす。 でもよく見えない。 変、だな。ボク、視力には自信があったはずなんだけど。 嘲笑の文脈を含んだ溜息は暗闇に溶けた。 ゴウン、ゴウン。 神経が悲鳴を上げている。 まるで産まれたばかりの赤ちゃんみたいだ。泣くのが仕事って奴。 マトモに喋れないのも同じ。 喉がジンジン震えて、言葉が言葉にならない。 葉っぱになんてなれる訳がない。 芽ですらない。 痩せ細った土の中で枯れてゆく球根みたいなもの。 痛い、 苦しい、 どうしてボクが、 血が、 殺される、 壊れる、 死んじゃう、 やだ、 怖い、 助けて、 誰か、 ボクを、 救い出して、 死にたくない、 死にたく、ない。 ああ、そうだ。 ……ボクは死にたくなかった。 誰かに守られていた時も、独りになった時も、唯一貫かれていた意思はコレだけだった。 泣き喚いて、乙女さんの足を引っ張って、佐藤さんに騙されて、人を殺して。一瞬を乾いた笑顔で塗りたくっても、ボクはずっと怯えていた。震えていた。 いつか誰かに殺されてしまうんじゃないか。酷い目に合わされてしまうんじゃないか。 そんな思考がずっと脳味噌を馬鹿にしていた。 ゴウン、ゴウン。 でも、もうダメだよ。 自分でもどうして生きているのか、不思議なくらいだもん。 身体はもう、ほとんど死体と変わらない。ううん、ボクよりキレイな死体だってこの島には沢山あると思う。 右腕は潰れたトマトとスペアリヴ。 左肩はスプーンで抉られたミルクプリンみたいに白いものが一杯飛び出している。 全身の骨はバラバラ、グチャグチャで煮込んだらスープに溶けてしまいそう。 うん、きっと良いブロスになる。美味しい、美味しいシチューが出来る。 指先を動かす事もままならない。 眼球はくすんだガラス球。光は通すも、透しは悪い。 鼓膜はビリビリ、ズルリと爛れ、頭蓋を揺らす駆動音は最悪。 鼻腔をくすぐる鉄の匂い。ドラキュラも満腹になるだろう、箱詰めにされた血のジュース。 触覚は……あんまりよく、分からないや。たくさん、痛い。 口の中は擦り切れて、十円玉を舐めた時みたいな味がする。 ……あぁ、たいやき、食べたいなぁ。 ゴウン、ゴウン。 視界に何か明るいものが映った。 霞み、燃えて、歪んでいく光。思わず釘付けになる。目を凝らす。じっと凝視する。 ガクン、と身体が大きく揺さぶられた。 目の前がふいにボヤける。 その時、突然――光が満ちた。 ガタン、ドン。 「ぅ……ぁ……」 気のせいか周りが少し、明るくなったような気もする。 響いて来る音が変わった。全体的に軽くて、優しい音になったような感じ。 何だっけ、コレ。 うん、……エレベーター? じゃないや、えと……。 そうだ、ジェットコースターだ。 カタカタ音を立てて動くのも同じ。お腹の底がモヤモヤするような気持ちになるのも同じ。 そういえばしばらく遊園地なんて行ってない。 上を向くとそこにはぽっかりと丸い月。 赤い月。 夕焼けにそまったキレイなキレイな……。 「……ぉ……ぃ……聞こえ……るか?」 こ、え? 誰かがボクに話しかけている? よく見ると目の前に誰かが立っているような気がする。 やだな、怖いな。 さっきの人みたいにボクを傷付けるんじゃないか。 でも、恐る恐る目をしっかりと開こうとする。 どうせ、ちゃんと見えないだろう事は分かっている。 もしかして、もっと酷い目に会うかもしれない事も分かっている。 だけど―― ■ ……そりゃあ驚いたさ。 小屋から出て東進。住宅街を目指して歩いていたら、目の前にいきなり血だらけの箱が現れたのだから。 いきなり、ってのはまさにその言葉通り。 この島に飛ばされる時、周りにいた連中が青い光になって消えて行ったのと似ていた。 ビカーッと目の前が光ったと思ったら、突然数メートル先の空から箱が落ちて来たって訳。 まぁ落ちて来たって言っても、せいぜい地上30cmくらい。 意外と着地はソフトだったけど。 中でも何に一番驚いたってやっぱり臭い。 噎せ返りそうになるくらいのドギツイ血の臭いが酷いのなんのって。 見れば箱の側面にもベッタリ血が付着していたし、加えて『明らかに何かが中にいる』って事は嫌でも感じた。 デイパックからS W M10を取り出して弾丸を装填。 中から何かが飛び出してくる可能性を考慮して警戒は緩めない。 一歩一歩神経を研ぎ澄ませたまま接近。 時刻は放送も間近に迫った六時近く。 空も赤色を失い、次第に真っ黒なカーテンへと模様替えしつつある。 月の光だけが場違いだ。 真珠と柘榴石が混じった滑らかなスポットライト。黒と赤だけの劇場にこんな明るい色は要らない。 出来れば瑪瑙か瑠璃のライトならピッタリだったかもしれない。 「う…………何、さ……これ」 地獄絵図。その言葉しか頭の中に浮かばない。 余りにもショッキングな光景に構えていた拳銃を取り落としそうになった。 鬼か悪魔か死神か、この世のマイナスイメージを司るシンボルを片っ端から叩き込んでも、意図的にこのような構図は作れない気がする。 小さな風呂桶程の木の箱(多分トロッコという奴だ)に無理やりぶち込まれた二つの『人間らしき』もの。 片方はもう性別の判断すら付かない。加えてどう見ても死体だ。 顔面は削られて、何かノミのようなもので削られたみたいにボロボロ。僅かに空けられた口蓋からは一本の歯も見えない。 体中の皮膚がズタボロでこちらはどちらかと言えばカンナ使用後、という感じ。 見える範囲に赤くない部分を探す方が面倒だ。 心臓が弱い人間がコレを直視したら、心臓発作を起こしてもおかしくない光景。 いや、下手をすれば発狂しても可笑しくない。 人とはここまで残酷に死ねるのか、そう思わずにはいられない。 もう片方の女も相当酷い怪我をしている。 特に右腕。皮膚が裂け、肉が完全に破裂して、脂肪の黄色と骨の白が作るコントラストなんてまさに倒錯的。 男が流した血液が大分降りかかっているのだろう。全身血だらけだ。 唯一、顔だけはほとんど傷付いてないのが逆に疑問を誘う。 しかもこう、マジマジと眺めてみると中々可愛らしい顔つきをしている。 栗色の髪に赤いカチューシャ。おそらく中学生くらいか。それにしても偉く童顔だ。 勿論二人を埋葬するつもりなどこれっぽっちも無かった。 こんな所で無駄な労力を使う気は元々皆無。 何故この二人があたしの目の前に飛ばされて来たのか、気にはなるもののその理由がまるで分からない。 下手な藪は突付かない物だ。考えても分からない事は丸投げ上等で結構。 「ま、死人に口無しっていうくらいだからね……ん」 「……………ぁ……ぅ……」 「……あらら。…………おい、そこの死に損ない。聞こえるか?」 「…………ぅ」 驚いた。女の方から微かな喘ぎ声が漏れた。 息も絶え絶え、虫の息といった感じではあるが。 こんな状態になりながらも生に縋りつく辺り、人間の生命力って奴には感心させられる。 「喋れる?」 「…………ぅ……ん」 「あんた、名前は? 何処から来た?」 「……ぁ…………ぁ……………ゅ………ぅ……み…ぃぇ」 「…………あゆ? あゆでいいのか?」 朱色に染まった女は少しだけ口をぼんやりと開けると、何か沢山喋りたい事でもあったのかパクパクと魚みたいにソレを動かした。 でも何も聞こえない。何も出てこない。 しばらく金魚の餌やりに似た動作が繰り返される。女はパクパク口を動かす。 数分にも似た数秒後、ようやく諦めたのか小さく小さく首を縦に振った。 もう、限界が近いのかもしれない。あたしはそんな事をふと思った。 あたしはその名前に覚えがあった。 元々『あゆ』という名前は珍しい部類に入る。 もっとも本名が『あゆみ』だったりする奴らが、自分の事を『あゆ』なんて呼ぶのはよく見かける光景ではあるが。 名簿を確認した時に発見したもう一人の『あゆ』 自分と同じ名前。少しだけ興味を持った。それに……あの男とも出会ったから。 「……ああ。アンタがそうなんだ。……相沢祐一って分かるかい?」 「ゅーいち…………く……ん?」 「そ」 「わか……ぅ……よ」 必死で紡がれる言葉。 もう舌が回らないのか、まるで発声がなっちゃいない。 もしも、ここにいたのがアイツだったなら、この腕で思いっきり抱き締めてやったのだろうか。 それとも生きているのを見るのが辛いって、一思いに殺してやったのだろうか。 そんなの分からない。興味も無い。だってあたしは相沢祐一じゃない。 大空寺あゆだから。それはあたしがやるべき事じゃない。 「……会ったよ、あいつが死ぬ前に。あんたの事、心配してた」 「そっ……か……ぅーぃちく……ん、ボクの……こ、と」 女が眉を軽く潜めて弱々しく呟いた。 自分自身を『ボク』なんて呼ぶ女にこんなに短い期間で二人も出会うなんて。 珍しい事もあるものだと、ふと思った。 ■ あたしは自分と同じ名前の少女を血の溜まったバスタブのような箱から引きずり出すと地面にそっと寝かせた。 太陽の光が掛かるのさえ可哀想に思えたので、トロッコの影へ。 女にトドメを差してやるつもりも、背負ってどこかへ連れて行くつもりも無い。 どちらにしろ、もう助からない。 近くに病院があるとはいえ、連れ込めば治るとかそんなレベルの怪我では無いのだ。 強い奴が生きて、弱い奴が死ぬ。 ソレがこの島のルール、そんな事はもう痛いほど思い知った。 余計なお世話は自らの命を脅かす事になる。目の前の死にかけを救ってやる理由も共通点も無い。 ただ、月宮あゆという人間が存在したという事実を覚えておくだけ。 それに――あたしは時雨の仇を取らなければならない。 最期を見届けた訳ではない。だけど分かる。あの状況で時雨が死んでいないなんて、脳のイカレた夢想家の思考だ。 アイツは最後まで笑っていた。 自分達を襲ったのがほんの数時間前まで一緒にいた一ノ瀬ことみだと言う事を知らずに逝ったのがせめてもの幸せ。 だからあたしは復讐する。 アイツの優しさを、信頼を裏切った糞虫どもに地獄を見せるために。 「……じゃあな、ちゃんと死ねよ月宮。……化けて出たりしないように」 「……ばぃば……ぃ……ぅ……ぐぅ」 女は最後の断末魔のつもりなのか、訳の分からない台詞を吐いた。 手を振る力も残っていないのか、残った片方の手を開いたり閉じたりしてサインを送る。 大怪我を負っている自分を放って立ち去る相手に別れの挨拶をするなんて、不思議な性格をしている。 恨み言の一つも言われる覚悟はしていたんだが。 まぁ、ゾンビのように追いかけて来られても困るがね。絶命上等で思いっきり蹴飛ばしてしまいかねない。 女を放置して少し歩いてから足を止める。位置的にはF-5の丁度真ん中辺りのはずだ。 さてと、どうするか。実は少しだけ考えておきたい事項がある。 自分は商店街に向かい、爆弾を作るつもりでいた。 だがホテルから脱出した時、頭に血が上っていたような気がするのだ。 今になって、そのプランにはいくつか綻びが存在しているような気がしてならない。 何しろ問題点が多過ぎるのだ。 まず設備や道具の問題。住宅街、商店街にそう爆薬だの信管だのがゴロゴロしているとは思えない。 自分自身も爆弾のエキスパートという訳では勿論無い。そんな簡単に爆薬が作れれば、今頃この島は発破の嵐だろう。 ……そうだ、何の為の支給品だ。 マシンガンが支給されているのならば、それに追随するような武器が存在する可能性も高い。 あたし自身が拳銃、防弾チョッキ、閃光弾と相当バランスの良い"当たり"を引いている。 ならば他の参加者はもっと性能の良い道具を所持している、という仮説に辿りつく。 つまり『二人を血祭りにあげるために他の参加者を利用する』というプラン。 利用と言うのは少し言葉が悪いか。 少なくとも一ノ瀬ことみにしろ、佐藤良美にしろゲームに乗った人間なのだから一時的に他の連中と手を組むのは悪くない。 だが安易に他人を信用するのは危険。『ウサギの皮を被ったオオカミ』にあたしは見事に遭遇しているのだから。 他にも似たような輩が存在する可能性は無視出来ない。 難しい問題だ。 だが考慮に値するやり方。 さて、あたしはこれからどうすれば良いだろう。 【F-5 平原(マップ中央)/1日目 夕方】 【大空寺あゆ@君が望む永遠】 【装備:S W M10 (6/6) 防弾チョッキ】 【所持品:予備弾丸11発・支給品一式 閃光弾セット(催涙弾x1)ホテル最上階の客室キー(全室分)】 【状態:肋骨左右各1本亀裂骨折 肉体的疲労度軽、強い意志、背中が亜沙の血で汚れている、腕や衣服があゆと稟の血で汚れている】 【思考・行動】 行動方針:殺し合いに乗るつもりは無い。しかし、亜沙を殺した一ノ瀬ことみと佐藤良美は絶対に殺す。 1:本当に商店街に向かうかは考え中、あだ討ちに他の参加者を利用できないかと模索 2:二人を殺す為の作戦・手順を練る 3:なるべく神社方面には行かない 4:ことみと良美を警戒 【備考】 ※ことみが人殺しと断定しました。良美も危険人物として警戒。二人が手を組んで人を殺して回っていると判断しています。 ※ハクオロを危険人物と認識。 ※魔法の存在を信じました。 ※支給品一式はランタンが欠品 ※作る武器が爆弾か他のものになるかは次の書き手さん任せ ■ 女の人はどこかに行ってしまった。顔は良く見えなかった。 でもお月様みたいにキラキラ輝いていたような気がする。 ボクに酷い事をしたりもしない。 ボクを護ってもくれない。 ボクを治してもくれない。 だけど、それはある意味誰かに頼り切ってこの島で生き延びて来たボクには当然の報いのような気がした。 それに、一つだけ。幸せな事があった。 祐一君もボクの事を心配してくれていたと言う事実。 女の人の口からソレを告げられた時、バラバラになりそうなくらいの激痛に犯された身体が少しだけ楽になった気がした。 ぼんやりと空を見つめる。 もう夜だ。お空は黒に近い紺碧。 夕焼けの赤は波打ち際の貝殻みたいに地平線に吸い込まれてしまったようだ。 あぁ、月が綺麗だなぁ。 【F-5 平原・トロッコの影(マップ左)/1日目 夕方】 【月宮あゆ@Kanon】 【装備:なし】 【所持品:支給品一式】 【状態:瀕死(背中から出血中)、絶望、痛覚の神経が不能、五感が働かない、喉に紫の痣(声が出せない)、ひたいに割れ目、 左肩に深い抉り傷(骨が剥き出し)、右腕破裂、右足に銃傷(腫れ上がっています)、背骨骨折、骨盤に大きなヒビ 肋骨複雑骨折、膵臓出血、肺に傷、その他内臓に内出血の恐れ、左肩に打撲、右足首に打撲、背中を無数に殴打】 【思考・行動】 0:さようなら 1:死にたくない 2:誰か助けて 3:ごめんなさい 4:お腹へった 【備考】 ※放っておくと死にます。 ※悲劇のきっかけが佐藤良美だと思い込んでいます ※名雪の第三回放送の時に神社に居るようようにするの情報を得ました (禁止エリアになった場合はホテル、小屋、学校、図書館、映画館の順に変化) ※土見稟(死体)はあゆの隣にある血だらけのトロッコの中。 142 カニとクラゲと暫定ヘタレの出会い 投下順に読む 144 先の先、後の先。 142 カニとクラゲと暫定ヘタレの出会い 時系列順に読む 144 先の先、後の先。 138 Hunting Field(後編) 大空寺あゆ 159 安息と憂鬱の狭間 136 蜃気楼の旅路へ~宣戦布告~ 月宮あゆ 153 選択肢
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『Robochemist!』 第四話「初戦(前)」 見据えた先にある丸い目標板に揺れる照準を合わせ、引き金を引く。断続的な轟音が腹に響く。 目標をセンターに入れてトリガーと単純に言ってくれるが、これは難しいことこの上ない。 そもそもそんなことが可能なのは機械による修正があるからに他ならず、例えば補正がつかないように設定したら当たるものも当たらずに無駄となるだけであろう。 射撃とは“当たらない”ものなのだ。 外殻機を駆り戦うメタルナイツでは、誘導兵器や強力な化学エネルギー弾(成形炸薬弾等)は使用できず、また視界も通常の可視光線のものしか利用できない。そう、人対人の戦いを機械に乗ってやるものと同じと考えてよい。 つまり何が言いたいのかといったら、メタルナイツのルール上、射撃管制はほぼ操縦者任せなのである。撃ったらあとは自動(撃ちっぱなし方式)や、自動照準というのは許可されていない。 引き金を落とす時に腕が震えれば、それに追従してロボットアームまで向きを変えてしまい、銃口がぶれる。 「当たらない……っ」 プロトファスマの両手の機関銃から次々弾丸が発射されるが、一向に命中しない。腕が反動を押さえこんでくれるとはいっても、銃を撃った経験ゼロの人間がロボットに乗り銃を撃てば当たらないのは当たり前。 二条の射線が震えながら、なおかつバラけながら、やっとのことで的を捉え、いくつかの弾痕を穿ち始め。ペイント弾のピンクが霧状に散る。 「当たっ………あっ外れた」 命中に気を良くして手の力を抜いたが為に銃がブレて、中心からそれてしまう。慌てて修正するも、今度は動き過ぎて通り過ぎる。また修正、射撃。 アルメリアはその的が粉みじんになるまで撃ち続け、やがて引き金から指を離し、安全装置をかけて体から力を抜く。発射熱で両腕の機関銃がシューッと硝煙と熱気を吹き、揺らめく大気が上へと昇って。 プロトファスマの攻撃手段は射撃のみ故、それに付随する性能は高い方だが、機敏に反応し過ぎて狙いが付けにくい。例えるならPCのマウス。あれがちょっと動かしただけで画面の端から端まで飛んでしまうような。 操縦席備え付けのタッチパッドを操作して、動作速度を引き下げる。こうすることにより一応は狙いがつけやすくはなる。問題は咄嗟の事に反応できなくなってしまうわけなのだが、四の五の言っている場合ではない。 プロトファスマ、後退。六脚全てを動かすと負担が大きいのでローラーを微速回転。バスケットシューズが床を蹴るような音。 停止すると、カメラアイで前方を見据える。 「よーし」 先程の的の隣にあるもう一つの的を電子サイト内に入れ、全砲門を開く。元の両腕二丁、肩二丁、前脚部上方二丁、計六つの銃が眼を覚まし前に暗き口蓋を向けた。自動管制射撃はルール違反のため、これら全ては操縦者の動きを模倣するように作られている。 単機で六つの射線を確保し、六つの脚で安定性と防御性を確保。動ける重装甲車。それがプロトファスマ。 アルメリアは引き金に指を触れると安全装置を解除、叫びたかったことを叫び、引いた。 「せーのっ、フルバースト!!」 巨大なマズルフラッシュが機体前方で華開いた。膨大な物量で弾丸が殺到するや、的を瞬く間に削り壊し、木っ端にして宙を舞うゴミへと変貌。更に、機体を横に歩かせて射撃点を横に移動、的を弾丸の疾風で壊していく。 ペイント弾が命中時に破裂して毒々しいピンクをブチ撒ける。 射撃が当たらないのなら、そのまま機体を動かして当てればいいじゃない。これは彼女が好きでやっているゲームから思いついたことであった。 なおも指は引き金を引き続ける。狂乱染みた弾丸達が的に留まらず競技場の壁に幾つもの色彩を作成していき。 6丁の銃が生産する、むしろ清々しいほどの発射煙がプロトファスマを包む。誇らしげに輝く発射炎。銃身が過熱し、白に更に白を足す。 射撃の反動は凄まじく、5mもあり重量もかなりのはずのプロトファスマを振動させるほど。 だがその熾烈も物理的理由で中断する。銃を撃てば熱くなる。限度を超えると射撃に支障をきたし、命中精度連射性能が大きく低下し、最悪の場合発射不能となってしまう。 『武装過熱警告』 それを防ぐ意味でも銃身が一定の温度を越えると引き金を引いても弾が出ないようになるが、これは事実上の制限に等しい。銃身の交換をすればよいのだが、戦闘中にそんなことをしていたらいい的である。 6丁全ての銃が異常過熱したことを示す赤いランプが灯り、射撃が停止。轟音が止むと、操縦席には主機の稼働音と電子機器の発する羽虫のような音色のみが満ちて。 「これは……病みつきになるかも」 アルメリアはほうと溜息を吐くと、引き金から指を離し、操縦椅子にもたれた。顔は新しい遊び道具を見つけた小学生のようにキラキラしている。 白状しよう、銃を撃って『カイカン♪』だったのだ。実銃を撃った経験皆無(銃を持つ権利はあるが怖くて触れなかった)だったが、想像以上にカイカンだったのである。 問題はこれが試合で命中させられるかだが……そこは練習して慣れるしかないであろう。 一方シュレーの方はと言うと、アルメリアのように苦戦しているわけではなかった。 競技場の端に設置された的では飽き足らず、標準装備の大型散弾銃にペイント弾を詰めて撃ちまくっていた。 関節やら薄っぺらい装甲板やらから朦々と熱を放出しているその機体のカメラアイが瞬時に光を増せば、関節の向きが逆についているようにも見える脚が僅かに屈折した。 「こうしてぇっ!」 ローラー全開。 地を噛み、表面をがりがり研磨しつつアノフェレスのか細い機体が前傾したまま駆ける。正面のコンクリート製障害物に衝突する速度域。止まる気配、無し。 だがしかし、それらは全て感覚により計算されつくされたもの。描き出すは三次元機動。ブースターの類を装備していなくても、やってみせる、またやれるという自信と『経験』があった。 何せこれが最初ではないのだから。 距離数mにまで迫った地点でアノフェレスが跳躍。作用反作用に従い、地面に跳躍時生じた全てが乗りかかり表面が割れた。 「ひゅ ぅ!」 口笛―――。 ―――地上から数えて十数mはあろうかという高度にアノフェレスは跳躍していた。 外殻機に乗っていなくては味わえない高揚感と浮遊感が毛布のようにシュレーの身体を抱く。脳が焼かれるようだ。シニョンに結いあげていないモミアゲの部分の髪が支えを失い、宙に漂流する。 天井に座する照明が、電子化された視界の中で一層近く見えた。 「………~~♪」 アノフェレスがあたかも重力から解放されたように、宙でくるり一回転した。更に優雅に半回転。頭部の触角状パーツがゆらりゆらんゆうらり、揺れて。 シュレーはこういう時いつも思う。あぁ、飛べた、と。 でもそれは偽り。羽も翼も推進機構も浮力装置もない鉄の塊が飛べるわけもなく、落ちているだけなのだから。 シュレーの命ずるまま、アノフェレスが両腕を広げ、空中で姿勢を整える。 機体が、空中で完全に止まった。こうなれば、あとは落ちるだけだ。 アノフェレスの脚部のバネを最大限に利用し、衝撃を殺す体勢をとり、着地、同時に軽く前に跳躍、勢いのベクトルを前方に向けるよう、そして最後にローラー機構により強引に速度を殺す。 脚部がみしりと悲鳴を上げ、火花と共にどすんという重い音が生じた。アノフェレスが姿勢を起こせば、既に地上。 着地の衝撃を最大限にするそれはもはや、ついこの間外殻機に乗った者の技術ではない。 言うならば、歴戦の戦士のような洗練かつ老練した動き。言うならば、数十年と仕事をしてきた職人の作業。言うならば、徹底的に合理化された電子機器の作動。 だがシュレー=エイプリルは素人である。では何故ここまで動くことが出来るのか。それは幾つかの要因はあるが、最大のは『才能』であることに間違いはない。 人は産まれつき平等ではない。どんなに平等であるようにしても、性別というヒトの遺伝子設計の段階で不平等に分けられる。例え性別を乗り越えても、運と言う不平等のふるいにかけられる。 シュレーの場合は、外殻機を操縦することに関して他者の追従を許さない不平等を抱えていた、それだけのこと。 シュレーは、蒸し風呂状態の操縦席で腹まで息を吸うと、機械を通じ散弾銃を構えた。 熱い、暑い。壁を触れば熱く、空気が暑い。限界を超えているとしか思えないほど頑張る冷却用送風口から出る冷たき風は片っ端から熱に犯されて感ずることすらできない。 アノフェレスは軽量・身軽を極めるために装甲はもちろんのこと、あちらこちらを削っている。その一つが冷却装置である。主機とモーターが生み出す熱を冷ますためのそれがお粗末になっている故、操縦席は蒸し風呂となる。 それを解決することは積載性と搭載場所の関係どうしても出来ず、シュレーは一つの結論を下した。 ――暑いなら、服を脱げばいいじゃない。 もういろいろと間違ったその考えはなんと効果を上げた。 スポーツブラに、スパッツ。たったそれだけの服なれば汗をかこうがなんだろうが関係ない。あとは体力と気力が持つまでだ。 シュレーの外殻機に関する才能は操縦だけではなく、耐Gはもちろんのこと、暑さへの耐性もあった。彼女は外殻機に乗るための能力を始めから持って産まれてきたと言って過言ではなかった。 もっとも、当の本人は楽しいから乗っているだけだが。 ローラー全開。アノフェレスはやや腰を落とし、障害物の間を縫うように機動する。継ぎ目のない、しなやかで強かな移動。肉食獣が獲物を捉えるべくすり足で距離をつめるようでもあった。 右に曲がったかと思えば、たちまち独楽のように回転して反対の左方向へ。障害物の真横を通った次の瞬間には、機体そのものを後ろに倒れる程仰け反らせ急反転。 ≪はぁーしゃっ!!≫ コンクリートの障害物の上に飛び乗るや、散弾銃を的に向けて撃つ。ガンパウダーが炸裂。散弾がいくつもまとめて的に飛び、上半分を蓮根のようにピンクの斑点を印刷して。 二射三射四射――! 用無しショットシェルが自動排出。高速移動する機体から連なってバレエを踊るよう放たれ落ちて。 的を撃ち尽くした後は適当に狙いをつけて発射するのみ。障害物を敵に見立て射撃。その間ローラーを使い、その場で高速回転。眼が回る。だがそれがいい。 散弾銃を両手で持つようにして停止。動けば熱が出る。ふと気がつけば、機体に卵を落とせばたちまち焦げ付く程熱くなっていた。 操縦席内の空気はごとごとく赤色。肌をべとり撫でる排熱が汗を強制的に噴出させる。やもすれば砂漠か何かに放り込まれたと錯覚するような、寒気すら覚える暑さ。 シュレーは首の汗を手で拭うと、そのまま瞼を擦った。汗が眼に入るとしくしく痛むからだ。 機体を操縦するのに汗をかき、暑さで汗をかくという二重苦が圧し掛かっているはずなのに、シュレーの顔に苦痛はない。 というより、暑くて逆に雑念が消えて行くので集中できる。湿気が無いことによりカラッとした暑さなのがそれに効果を加えていた。 散弾銃の銃口を下に向けて安全装置をかけると、アノフェレスを片膝付かせ停まる。ほぅと息を吐けば、おもむろにその方向を見遣る。頭部が身じろぎ、向きを変えた。 ≪貴様ら、随分と派手に暴れてくれたな?≫ その時、二人の無線機に通信が入った。 入口の方を見てみれば、御冠の様子のセンジュがいた。心なし紫色の髪が荒れており、白衣も皺が目立つ。 隣に立っているはツナギ姿のアオバ。眼を丸くして二人の搭乗した機体を見ている辺り、新発見でもあったのだろうか。 更に隣を見れば、ゆったりとツナギを着こなしたクーが立っている。背中にリュックを背負っており、アルメリアは中身がなんとなく予想がついた。というか、半開きのチャックから黒い尻尾のような物体が突き出しているのだから。 センジュは再度無線機の送信ボタンを押すと、腰に手を当ててガァガァ怒鳴った。口角泡を本当に飛ばしている。 ≪撃ってはいいと言ったが貴様ら限度を知らんのか!≫ 語尾にヤクザ言葉でも装着してもなんら不思議ではない怒りの御言葉。 アルメリアにはセンジュがなんでそんなに怒っているのか理解できなかったが、自分がペイント弾で粉砕した的を見遣り、そしてピンクに染まった壁を見遣って、手をぽむと合わせた。 そうか、きっと撃ち過ぎたことに怒っているんだ。練習って言っていたのに実戦まがいの事をやってしまったから、怒っているんだ。 アルメリアはそう結論付けると、その答えが答えになっていないことにも気がつかず無線に口を開いた。 ≪撃ち過ぎがいけないんですか? ごめんなさい!≫ ≪そこではない! 撃ち過ぎてカネが無くなると修理や備品の購入費までスッ飛ぶからだ!≫ ≪えっ≫ ≪カネが湧いて出ると思うなよ? 特に我々のチーム、お前らは何の実績も上げてないのだからな。私の懐からカネを出すわけにもいくまいし≫ ≪そ、そうなんですか?≫ ≪そうだ≫ 良く考えてみれば、そうだ。 外殻機の運用にはカネがかかるからいくらでも使っていいよ、なんて甘いことを許される訳も無くて、使えるカネが有限なのだ。それをじゃんじゃん弾薬費につぎ込めば怒られるのも道理。 それを黙って聞いていたシュレーが、無線を使う前にアノフェレスの右腕を生徒のように上げた。 ≪キョージュ、質問!≫ ≪なんだ?≫ ≪じゃあコレはどうなんですか!≫ そう言うと、アノフェレスは背中の黒いブレードを引き抜き、軽く一振りして見せた。マチェットのように飾りが無く、機能性を第一に考えたような代物。 センジュは一度無線機を口から離し、また繋げた。 ≪それは大して高くないからいくらでも構わん。だが、銃に関しては考えて撃て≫ ≪はーい、先生≫ 二度目にして教授から先生に格下げ(?)されたセンジュだが、特に気にした様子も無い。説教をして満足したらしく、憤りを引っ込めると、ふぅ、と息を吐いてまた無線を繋げた。 ≪ということでだ、お前ら二人の為に今日は模擬戦を行おうと思う。相手は新入生、条件は全く同じ相手だ≫ 言い終わるが早いが、競技場の大型シャッターが上にするする上がり始めた。逆行を背景に、外殻機が顔を覗かせて、開き終わるとローラーで前進して競技場の中央に進んでいく。 どっと風が流れ込み、センジュの長すぎる紫髪をはためかせた。 周囲を取り囲む整備士やチームメイト達は手に持った紙に何事かを書き込んだり、あるものは無線機に語りかけて、またあるものに至っては機体に乗っている。 先頭は二脚式の外殻機で、装甲はあるというのに何か貧弱に見える機体だった。カメラアイがとても大きく威圧的で、頭部が左右非対称。関節部の防御板は少なく、前方投影面積を減らそうと苦心したことが窺える。 まるで軍がするような迷彩色の機体の腕には、大口径高速弾を射出するであろう細長く先端にマズルブレーキらしき形状が見受けられる銃が握られている。狙撃を前提にしているのか。 続くもう一機はプロトファスマを超える大型機であった。 六脚式。太く、どっしりとした脚部の上に乗っているのは肉の分厚い胴体。腕も太く、握られた大型の盾とそれに仕込まれた銃がい脅すように照明を反射して鈍く光っているのが眼に入った。 こちらとは対照的な赤いモノアイで、見るからに関節部の可動領が狭いと分かるのだがそれを補って余りある装甲があり、それこそ戦車と表現してもよかろうという程。 センジュはチームの一人のところに歩いて行くと時折身ぶりを交え会話をして、二人の方に振りかえると無線機を口元に上げた。 ≪目標役は私がやる。ルールは分かっているな?≫ 【続く】 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます) +... 名前
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Feldwebel 第1話 <1> オーバル・ブラントは全く生きた心地がしなかった。 ヴェルダンやソンム、東部戦線以上に彼はこれ程の絶望を経験した事はない。むしろ今の 彼は、自分の身に起こっている出来事と比べれば、二度の世界大戦など些事に過ぎなかった。 悲しみに耐え切れない、と生体が判断した時、人間の心や記憶は一時的に飛ばされる事が あるらしい。今のブラントがまさにその状態にあった。 何があっても常に自信と余裕に満ち溢れた灰色の瞳に生気はなく、四十代後半になるとい うのに一切の衰えを感じさせない程にまで鍛え込まれた上背のある肉体は弛緩し切っている。 しっかりとした足腰で、どんな重装備を身に付けていても戦場を機敏に動き回る彼は誰か らも頼りにされる最古参の兵士だが、今はその見る影もなく、力なく項垂れている。 破壊され尽くした伯林の街並みは戦前の面影を全く残していない。とは言っても、一九四 三年十一月十八日と十九日の両日で、独逸民族の首都はその殆どを廃墟にされた。伯林の受 難の日々は今に始まった事ではない。 ブラントは破壊され瓦礫でほぼ埋め尽くされた道路上に放置されたⅣ号戦車の車体側面の 転輪に背を預け、地面に足を投げ出して座っていた。彼は二人の若い兵士を両脇に抱えてい たが、どちらも顔は蝋燭の様に青白く、事切れていた。 既に息絶えている二人の兵士はまだ子供といっても差し支えない年齢だ。あどけない容姿 に与えられた草臥れた軍装が似合わなかった。 大き過ぎる軍服に貧弱な火器を与えられ、戦場に送り出された彼らは少年兵だった。まだ 年の頃は十代半ばで、決して死ぬ為に生まれてきた訳ではない。やりたい事が一杯あっただ ろうし、夢だってあった筈だ。なのに彼らは大人達が勝手に始めた戦争で若い命を散らして しまった。そして今はこうして、その幼くして天に召された御魂を慰める様に、ブラントが その冷たくなった身体を両脇に抱えていた。 ヒュルヒュルという榴弾の不吉な飛翔音が聞こえたか思うと、次の瞬間、彼の直ぐ近くに 落下し、轟音と共に火柱が空高く吹きあがった。 大量の土砂と破片が降り注ぎ、軍服の裾が爆風に煽られるが、ブラントは無関心だった。 その間にも砲弾の嵐は一層強まり、周囲には鉄の雨が降り注いでいた。 一体どれぐらい続いたのだろうか。周囲一帯は完全に砲弾で掘り起こされ、焼き尽くされ、 破壊され尽くしていた。だが彼は全くの無傷だった。目深に被っているヘルメットも山岳帽さ えも飛ばされなかった。 奇跡、だろうか。それとも単に彼の悪運が強いだけなのかもしれない。やがて煙の向うか ら圧倒的な質量を持った鉄の塊が、五月蝿い排気音と履帯の音を響かせてやってきた。 ソ連軍のT34中戦車だった。単体の強さはⅥ号戦車ティーガーには劣るが、生身の歩兵 には途轍もない脅威だ。それがブラントの存在に気付かず瓦礫を踏み拉きながら進んで来る。 このまま死んだ振りをしていれば彼らは気付かずに過ぎ去ってしまうだろう。だが、ブラ ントの身体は鋼鉄の獣の接近を感知すると、今までの虚脱状態から嘘の様に立ち直っていた。 絶望のどん底にある彼は死のうと思っていた。その思いは今も変らないが、方法を少しだ け変える事にしただけだ。近くに置いてあった三個の三kg爆薬が詰まった二つの工兵用の バッグを無造作に手繰り寄せると襷掛けにし、皿型対戦車地雷を胸に抱いて立ち上がった 今まで死体だとばかり思っていた独逸兵がむくりと立ち上がると、T34の車体前面の機 銃が慌てて火を吹いたが、少しばかり遅かった。 立ち上がったブラントは既にT34に向って突進していた。機銃弾が掠めるが、今の彼は 恐怖を微塵も感じていない。顔には出さないが、むしろ狂喜さえしていた。 憎むべきは勝算のない戦争を全世界に向けて吹っ掛けたヒトラーだろうか。それとも彼を 権力の座に押し上げてしまった無能な大衆だろうか。勿論、その大衆の中にはブラント自身 も含まれている。戦争に駆り出される者、駆り出す者、どちらも被害者であって加害者だ。 ヒトラーも加害者でありながら被害者だ。彼も凄惨な第一次大戦を経験した戦争世代の人 間であり、あの何時終るとも知れない塹壕戦で青春を散らしたのだ。若きアドルフの人生を 変えたのは墺太利・洪牙利ニ重帝国が起こした戦争だ。そして老いたオーバルと、その妻と 六人の息子と二人の娘の人生を変えたのも独逸第三帝国が起こした戦争だ。 誰が善で、誰が悪だとかが問題なのではない。誰が始め、誰が終らすのかが問題ではない。 戦争にも問題がある訳ではない。既にこれは人間の長い歴史が実証する様に、自然現象の様 なものなのだ。避けられないのである。人間が生きる限り、避けられない問題なのである。 本当に憎むべきは争わずにはいられない人間の生物としての性(さが)である。だがその 性がある故に人間は生物として成り立っているのである。 この大いなる矛盾が、この老兵を遣る瀬無さの淵に追いやっていた。彼にとってはもう全 てが如何でも良くなっていた。だから死こそが彼に残された最期の癒しだった。 ブラントはT34の車体側面に回り込むと、後部エンジングリルの上に攀じ登った。そし て胸に抱いた対戦車地雷の信管を切った。信管がジューッという音を立てて燃焼し始める。 あと数秒で爆発するだろう。砲塔ハッチが開いて、戦車長らしきソ連兵が拳銃を片手に顔 を覗かせた。自分の戦車に攀じ登った不届き者の独逸兵を排除しようというのだろう。 だが手遅れだった。彼が顔を覗かせた瞬間、老兵が胸に抱いていた地雷が爆発した。貧弱 なエンジングリルの上で起こった爆発は、この鉄の怪物を黙らせるには充分過ぎた。 爆発はエンジングリルを突き破ってエンジンそのものを破壊した。そして燃料に瞬く間に 燃え移り、搭載している砲弾をも巻き込んだ。 死にたがりの老兵共々、鉄の化物は爆発四散し、廃墟と化した伯林にまた瓦礫が増えた。 <2> 微かに香る刺激臭。これは、消毒液か何かだろう。 深淵に沈んでいたブラントの意識はその匂いによって急速に浮上していった。 目覚めたブラントは、見知らぬ部屋で寝かされていた。 白い天井、白い壁、白いシーツ、白一色で埋め尽くされた部屋が病院の一室であると気付 くのにそう掛からなかった。 対戦車地雷を抱いて自爆した筈なのに生きているとは、一体自分の悪運はどれだけ強いの だろうか。縦しんば生きていたとしても、戦車を破壊するだけの威力を秘めている対戦車地 雷の爆発に巻き込まれたのだから、手足の一本は確実に吹き飛ぶ筈だ。なのに自分の身体は 外傷らしい外傷を負ってはいなくて、右腕に点滴が刺されているだけだった。 訳が判らなかった。だが、何故、自分が生きているのかという疑問を抱く前に、自分が生 きているという事実にブラントは絶望していた。 全てを終わりにしたかった。なのに終われずにいる。本気で自らの死を願ったのはあれが 最初で最期だった。薬莢に残った不完全燃焼の炸薬の様に燻っているこの想いを何処にぶつ ければ良いのだろうか。 ただ呆然と、ブラントは白い天井を見詰めていた。今の彼の魂は肉体から乖離していた。 だから近付く誰かの気配に気付かなかった。 「具合は如何かね?」 いきなり目の前に現れたのは、犬の顔だった。それも典型的なジャーマン・シェパードだ。 ブラントは愛犬家で、特に黄褐色と茶褐色のニ枚毛のシェパードが好きだったが、この時の 彼は全くの無反応だった。 ただ、ぼんやりとした目でシェパードの顔を眺めていた。 「おや、私の顔を見ても驚かないとは……変っているな」 そう言ってシェパードの顔は視界外に引っ込んだ。ブラントは何気なくそれを目で追った。 ベッドの傍に白衣の男が佇んでいるのが見えた。恐らく医者だろう。しかし、先程のシェパードは 一体何だろうか。そもそも病院へペットを連れ込むのは禁止されている筈だ。 視線を上にずらすと、その医者がかなりの変り者である事が判ると同時に、シェパードの 謎も解けた。彼は如何いう訳か、シェパードの被り物を頭に被っていた。 初めは犬が喋っているのではないかと思ったが、それは単に馬鹿げた錯覚に過ぎなかった。 犬が言葉を喋る筈がない。ましてや訛りのない、高い教養の片鱗を窺わせる様な完璧な発音 の独逸語を、犬が喋る筈がないのだ。 だがブラントにそう錯覚させるだけ、その医者が被っているシェパードの被り物はよく作 られていた。毛並みの質感や黒く湿った鼻、瞳の輝きなどは本物そっくりだ。 「まぁ、落ち着いているのは良い事だ。これが小娘のヒトだったらギャーギャー騒いで、五 月蝿くてかなわんからね。君が成熟した男のヒトで、診る方としては助かったよ」 シェパードの被り物をした医者は、そう言って白い絹の手袋を嵌めた手に持っていたファ イルケースを捲り出した。 「身体の何処かが痛むとか、気分が余り良くなかったりするかね?」 簡単な質問をされたので、ブラントは首を横に微かに振る事で答えた。 「うむ、結構結構。これなら落愕病の可能性も無い……明日には退院出来るな」 満足そうに頷き、一頻りカルテに何か書き込むと、シェパードの医者はケースを脇に挟んだ。 「それでは、私はこれで失礼する。何かあったら其処に置いてあるベルを鳴らしてくれ給え」 シェパードの医者は足早に病室を立ち去ろうとしたが、ブラントは彼を呼び止めていた。 「…………待ってくれ」 シェパードの医者は立ち止まり、振り返った。勿論、その被り物をした顔からは何の表情も 読み取れなかった 「何だね?」 一瞬、犬の被り物が怪訝そうな表情をしたのは気の所為だろうか。ブラントは構わず続けた。 「何故、ジャーマン・シェパードなんだ? 別に被るならば他の犬でも良いだろう?」 自分の好きな犬種の被り物をしているこの奇妙な医者に、ブラントは少なからず興味を覚え ていた。精巧に作られた犬の被り物をするぐらいならば、彼は犬が好きなのかもしれない。ま さか犬という単語を聞いただけでも嫌悪する様な人間でもないだろう。少しは関心がある筈だ。 「アンタはジャーマン・シェパードが好きなのか?」 「……やはり君も他のヒトと同様だな」 医者は何かに呆れた様子で、『やれやれ』と肩を竦める素振りを見せると、ベッドに引き返 した。ブラントは何事かと思ったが、彼はベッドの傍で跪いた。 「触ってみ給え」 何を、と聞こうと思ったが、如何やら彼はこの犬の被り物を自慢したい様だ。余りにも精巧 に作られているので、その出来栄えの素晴らしさを直に触らせる事で教えようというのだろう。 やはり彼は犬が好きな様だ。特にジャーマン・シェパードが。 ブラントはそっと被り物の長い吻に触れた。毛並みは滑々としていて温かかった。鼻もちゃ んと湿っており、健康的な犬の見本の様だった。瞳も綺麗に澄んでいて、年若い犬だと判った。 髭も綺麗に切り揃えられていて大変上品でよろしい。 「驚いた……よく出来ているな」 余りの出来栄えの良さにブラントは感嘆しながらも被り物を触る手を休めない。一頻り長い 吻を撫でると、唇を捲り、その下の鋭く尖れた白い牙と桜色の歯茎を確かめた。虫歯は一本も ないし、歯周病などの歯茎の病気もない。この被り物を製作するにあたって、如何やら余程優 れたシェパードを見本にしたのだろう。 被り物だけでこれだけの熱意を感じ取れるのだ。この医者は無類のジャーマン・シェパード 好きと見做して間違いない。首筋まで作られており、其処も柔らかな毛並みに覆われていた。 「君は私の顔が被り物だと思っているのかね?」 医者が言葉を発するのに合わせてシェパードの口が動いた。凄い、としか言い様がない。 「生憎と私のこの顔は被り物ではない。それが証拠に……」 シェパードの口が大きく開いた。上顎と下顎にびっしりと綺麗に生え揃った真っ白な牙、垂 れ下がる赤い口蓋垂とその置くまで作り込まれているのだな、と思ったが、此処で大きな違和 感に気付くと、生温かい吐息が顔に吹き掛かった。 「………これで判ってくれたかな?」 医者はすっと立ち上がると、白衣の襟元を正した。ブラントは信じられないといった表情を 浮かべており、『犬の顔をした医者』はそんな彼の様子を見て満足そうに唇の端を釣り上げた。 「私の名前はランディ・メイジャー。ヒト専門の『獣医』だ。君がジャーマン・シェパードと 呼ぶこの私の顔は、シュティファニッツ種独特のものだよ。覚えておき給え」 ブラントは聞きたい事が山ほどあったが、ランディ・メイジャーと名乗る『犬の顔をした医 者』は颯爽と長身に纏った白衣を翻して病室から去ろうとした。 「そうそう。君に一つだけ忠告しておこう。この世界は君らヒトにとっては大変辛いものだ。 もし、この世界で生活するのが嫌ならば其処の引き出しを開けてみ給え。中には物凄く気持ち 良く眠れる薬が入っている。それを飲んで寝れば、君は永遠の心地良い眠りを楽しめるだろう」 病室の扉を開け、閉める間際にそう言った。そして扉が閉まった。その閉まる音は意外と重 いものだった。多分、分厚い鉄製の扉なのだろう。人間の目線の高さ辺りに覗き窓らしきもの と、下には小さな隙間が設けられていた。其処から食器などを出し入れしたりするに違いない。 メイジャーが出て直ぐ、鍵の掛かる様な音が聞こえた。 ふと、窓辺に目をやった。白いレースのカーテンの向こうには、見るからに頑丈そうな太い 鉄格子が嵌っているのが見えた。 それらからブラントは一つの結論に至った。此処は紛れもない病室だが、刑務所の医療病棟 か精神に何らかの異常を来たしている患者を隔離する為の特別なものに似ている。 生憎と自分には自殺願望があるが、それは身も心も張り裂けんばかりの深い悲しみに襲われ たからであって、自分の身に起こった出来事が他の誰かに起これば、必ずその誰かも自分の様 に死を熱烈に望むと思う。それ程の悲しい出来事があったのだ。断じて自分は精神を病んでい る訳ではない。 だから此処は精神病患者の為の病室ではない。ならば、負傷した捕虜を収容する為の病院だ ろうか。だが連合国のみならず、世界中のどこを探してもあの様な『犬の顔をした』医者がいるとは 思えない。もしいたとしても、医者になるよりもサーカス団員になっているだろう。 考えても答は出るものではなかった。結論を導き出すだけの諸要素が圧倒的に不足している。 それでは無理だ。アインシュタインだって零から相対性理論を考えついた訳ではない。 「……何が如何なっているんだ?」 ブラントは溜め息をつくと、枕に頭を預け、瞼を閉じた。 取り敢えず考えるのは後だ。今は色んな事で何も考えられない。直ぐに彼は微睡み、深い眠 りに落ちていった。 既に彼は先程の奇妙なメイジャーの言葉を忘れ、つい先程まであった死への欲望が薄れてい た。それに気が付く事なく、彼の意識は暗闇に霧散していった。 それが果たして彼にとっては幸福なのかは誰も判らない。メイジャーの言葉を忘れる事無く、 素直にベッドの傍にある小さな机の上に置かれている小物入れの引き出しの中から、彼の言葉 通りの薬を飲んでから眠りに就いた方が良かったのかもしれない。 その安らかな永遠の眠りに就く機会を逃した事を、オーバル・ブラントが後悔する日がやが て来るかもしれないが、それは彼自身にも、誰にも判らない。